「啓明先輩っ!」
「な、何?」
先輩は、驚いた顔をする。
「もう、何度言ったら分かるんですか。パート練習の時は、しっかり1年生見てあげてくださいよ。また、苦情が来てるんですよ。」
私は、トロンボーンパートの桜木桃華(さくらぎももか)ちゃんと仲がいい。
名前の割に大人しくて、自分の世界だけで練習する啓明先輩に困ってるみたい。
その度に私は相談を受け、こうして啓明先輩に注意しに行く。
「だって・・・オレ、教えるの苦手だし。っていうか、年下苦手だし。」
え・・・?
私の胸がドキドキいってる。
でもそれは、いつもみたいに好きって感情じゃなくて・・・。
――――嫌われてたら、どうしよう――――・・・。
大丈夫だよね?
こんな風に話せてるうちは――――平気だよね?
こういう言葉を聞くと、時々不安になる・・・。
「神子、なーにあんた、また先輩の一言でショック受けてんの?」
麻紀の言い方も、結構傷つく・・・。
「気にすんなって。三谷先輩、そういうつもりで言ったんじゃないと思うよ。」
分かってる。
分かってる・・・けど。
嫌われてなくても、恋愛対象として見てもらえないのは辛いよ。
「平気だってば。三谷先輩、鈍感なんだって。ね?」
麻紀が、一生懸命私を励まそうとしてくれるのが伝わってくる。
ありがとう、麻紀。
幼稚園の頃から頼りになった麻紀。
麻紀がいてくれて、良かった。
それから、3ヶ月後。
相変わらずな私たちは、もうすぐコンクールを迎えようとしていた。
夏の吹奏楽コンクール。
それが終われば、ほとんどの3年生がいなくなってしまう。
きっと、啓明先輩も・・・。
だから、絶対予選で落ちちゃいけないんだ。
少しでも長く、残ってもらうため――――・・・。
「・・・こ先輩。神子先輩?」
「えっ、あっ、ごめん、何?」
気づくといつのまにか、1年生の後輩――――水野詩宇(みずのうたう)ちゃんが立っていた。
「あの・・・桃華ちゃんが呼んでるんです。」
ああ、そういえば、桃華ちゃんと詩宇ちゃんは仲良かったっけ。
「私に用なの?」
「らしいです。」
私は急いで桃華ちゃんに駆け寄る。
「どうしたの?」
「あの・・・神子先輩、啓明先輩と仲良いですよね。」
は?
「えっと・・・もしかして、また先輩何かやった?」
この前言ったばかりなのに、と思いつつ、どうやらそうではないらしい。
一体どうしたんだろう、桃華ちゃん・・・。
「違うんです。あの・・・わ、私。」
桃華ちゃんが、意を決したように言う。
「啓明先輩が、好きかも・・・なんです。」
えぇっ!?