「新1年生の皆様、ご入学おめでとうございます。これからの3年間、どうか皆様にとって充実した―――。」
「あの校長、話長っ!」
幸湖が小声で言う。
柏木丘高校の入学式。
私と幸湖は、地元にあるこの高校に一緒に合格した。
出来れば、李駆斗とこの学校に通いたかった――――・・・。
4年間、一度も忘れたことなんてなかった。
中学でも告白は何度かされたけど、忘れられない大切な人がいるからと、全て断った。
メールも出来なかったし、新しい住所も知らなかったから、李駆斗とは音信不通状態だった。
高校になったら会えるかもと、少し期待してたんだけど・・・。
「ねっ、校舎探検に行かない?」
入学式の後、好奇心旺盛な幸湖が早速提案する。
「うん、いいよ。」
「もしかしたら、運命の出会いがあるかもよ?」
「別に、私はいいよ。」
そう、待ってるって決めたから。
李駆斗のこと――――・・・。
「わぁっ、屋上広ーい!」
幸湖がはしゃぐ。
確かに、気持ちいいかも。
小・中学校は屋上立ち入り禁止だったから、こんなに青い空を間近で見るのは久しぶり。
ゆっくりと空を見上げたのも、あの時以来だよ。
「紫っ昏ー!こっち、こっち。」
「え、ちょっと幸湖、どこ?」
物陰から声が聞こえるけど・・・。
「きゃっ!」
ドン!
幸湖を探しに行こうとしたら、思いっきり誰かにぶつかった。
「す、すみません・・・。」
「大丈夫か?」
え?
男子の声。
顔を上げると、新品の制服をしっかり着こなした、背の高い男の子が立っていた。
この人も、新入生かな・・・。
「・・・お前、まさか。」
「へ?」
「紫昏?」
・・・あ!
この少し高めの声、この呼び方、この顔立ち・・・。
もしかして、
もしかすると・・・。
「李・・・駆斗?」
嘘、
李駆斗なの?
「やっぱり紫昏だ!変わってない。」
あの時と同じ、優しい笑顔で言う。
李駆斗。
ずっとずっと待ってた、李駆斗。
その李駆斗が、今、目の前にいる。
どうしよう。
待ち焦がれすぎて、言葉が出てこない。
「紫昏、この高校受験したんだな。」
最初に口を開いたのは、李駆斗だった。
「うん、家から一番近い公立高校だったから。でも李駆斗、どうしてここに・・・?」
「おじさんが、高校生になったらこっちで一人暮らししてもいいって。だから、そこら辺の安アパートに引っ越した。」
嘘・・・。
夢みたい。
でも、夢じゃないよね?
本当に李駆斗が、帰って来たんだよね?
「もっと、大学生とかになってからだと思ってた。ビックリしたよ。」
「オレもビックリだよ。紫昏、本当にちょっと女っぽくなってんだもん。一瞬、戸惑った。」
私だって、戸惑った。
李駆斗、随分背が伸びたね。
前よりも、更に差は広がってるよ。
「ってことは、さっきの榎並か。あいつは、全く変わってねーな。」
李駆斗が、くっくっくっと笑う。
「でも幸湖、あれでも彼氏いるんだよ。ほら、尊。」
「尊!?そういやあいつも会ってねーな。」
「あれっ!?もしかして、李駆斗君?」
幸湖が会話を聞きつけて来たのか、後ろに立っていた。
「久しぶり~。あれ、この学校に通うの?」
「ああ、そうだけど・・・。」
「良かったね、紫昏!」
――――本当に、良かった。
ずっとずっと、想ってた。
次に会うのはいつだろうって・・・。
李駆斗、無事再会出来て良かった。
「あ!そういえば。」
「うん?」
「約束は?」
李駆斗が、ちょっと照れながら問いかけてくる。
「ああ、指輪。これね、私の指に合わなくて・・・。ネックレスにつけてるの。」
私は、ニコリと笑いながら李駆斗の瞳をのぞく。
「え、ご、ごめん・・・。」
「何言ってんの。これがあったから、頑張れたんだよ。李駆斗のこと、待っていられたんだよ。ほら、約束でしょ?」
私は李駆斗の向かって、小指を突き立てる。
「ああ、そうだな・・・。」
その小指を、李駆斗は力強く握り返してくれた。
小学1年生、出会った日の空は、とても澄んでいて、青かった。
小学6年生、別れた日の空も、私の心とは裏腹に、とても青かった。
そして、16歳、またあなたと出会った今日の日も――――・・・。
「これからは、ずっと一緒だよ!」
私たちはずっとずっと先までの約束をした。
そう、出会いの空、別れの空の下で――――――。