「おっはよー!」

幸湖が他の友達に声をかける。

もともと4クラスしかない学校で6年間を過ごしてるのだから、知らない人はあまりいない。

「紫昏っ、聞いた!?」

噂好きの宮川磨魅(みやがわまみ)が、声をうわずらせて駆け寄ってくる。

私、本当言うと、この子苦手なんだよね・・・。嫌いじゃないんだけど。

「どうしたの?」

「今日ね、このクラスに転入生が来るんだって!しかも、超美人!」

「美人ってことは、女の子?」

私が聞くと、磨魅はうーん、と言葉を濁した。

「一目見ただけじゃ、分かんないんだよね。ただ、女の子だと思うけど・・・。」

なんじゃそりゃ。

一目見ただけで男子か女子か分からない子なんているの?

「ほら、チャイム着席ー。鳴ったぞー。」

「わっ、ヤバッ!」

磨魅は急いで自分の席に戻ろうとして、コケた。

(あーあ、またやった・・・。)

磨魅は運動神経がないというか、何というか。

なにもない所で、すぐコケるんだよね。

「今日は転入生を紹介する。入れ。」

みんな、好奇の瞳でドアの方を見る。

さすが磨魅、情報が早い・・・。

ガラッとドアが開いて、ショートカットの子が入ってくる。

?女の子にしか見えないけど・・・。

「・・・栗本綾彩(くりもとあやさ)です。よろしくお願いします。」

ああ、でも確かに、正面から見るとキリッとした表情で分かりづらいかも。

話し方も大人っぽいし。

「へぇ、あの子可愛いじゃん。転入生?」

どうやら李駆斗は寝ていたようで、寝ぼけた顔で栗本さんの方を見る。

ズキン・・・。胸が痛む。

李駆斗が、可愛いって言った・・・。女子のこと・・・。

今まで、どんな美人に会っても言わなかったのに・・・。

「じゃあみんな、仲良くするように!」

・・・平気、かな?

上手くやっていける・・・よね?


「くっ、栗本さん!」

私、思いきって話しかけてみる。

こんな嫉妬だらけの私、嫌だもの。

「・・・何?」

栗本さんは、冷ややかな瞳で見てくる。

・・・ちょっと、怖い、かな。

でも、頑張らなくちゃ。仲良くなりたいし。

「あのさっ、一緒に移動教室行かない?次理科実験だし、校舎のことも教えるよ・・・。」

「いいよ、そういうのうざったいから。うち、忙しいの。じゃあね。」

ストンッ。

心の中で、何かが音をたてた。

私、拒否、された・・・?

どうしよう。

あんまり急に言われたから、私、その場に立ち尽くしちゃった。

後ろから幸湖が駆け寄ってくる。

「なーに、あれ!?せっかく紫昏が声かけたのに・・・。いいよ、もう放っとこ。」

幸湖が憤慨して、理科室へと歩き出そうとする。

でも、私、どうしてか放っとけなかった。

あの子、何だか寂しい感じがした――――・・・。


理科の間もずっと、栗本さんのことを考えていた。

何でこんなに、引っかかるんだろう・・・。

考えながら実験をしてたら、つい、アルコールランプに触っちゃった。

「熱っ!」

「わっ、大丈夫!?紫昏。」

「う、うん・・・。」

「早く水道で冷やしてきな!」

幸湖に言われて、私は廊下の水道に向かう。

あーあ、もう、栗本さんのこと、考えるのやめよう・・・。

頭が混乱してきた。

「大丈夫か?」

ビックリして振り向くと、そこには李駆斗が立っていた。

「李駆斗!もう、ビックリさせないでよね。」

「何だよその言い草!わざわざ心配して来てやったのに・・・。」

え?

心配・・・してくれたの?

こんな、火傷くらいで・・・。

「あ、ありがとう・・・。」

「ほら、貸せって。手火傷したから、包帯自分で巻けないだろ。」

「何、わざわざ保健室まで行くの?」

私、思わず笑っちゃった。

「当たり前だろ!悪化したらどうすんだよ。」

本人は、真剣そのもの。

ありがとう、李駆斗。

いつも意地悪だけど、そういうたまに優しいところ、大好きだよ・・・。

保健室に着いて、いすに座りながら李駆斗が包帯を巻いてくれる。

「あれ?えぇっと、ここはこう・・・あれ?出来ねぇ・・・。」

「李駆斗の下手くそ!もう、本っ当に不器用だよね、あんた。」

「うるせーよ、黙って座ってろ。えーっと、これが・・・。」

こういう必死なところ、可愛いな。

「何笑ってんだよ。」

「えー?笑ってる?」

「めちゃくちゃキモい顔で笑ってる。」

「ひっどーい!」

今度は、李駆斗が笑った。

――――こういう時間が、いつまでも続きますように――――・・・。

「そうだ。」

李駆斗がふいに、声を上げる。

「あの転校生いるじゃん、ええっと・・・。」

「栗本さん?」

「そうそう、あいつさ、めっちゃ人懐っこいな。オレ、もう話せるようになった。」

え?

私の心が、一気にドン底まで突き落とされる。

私とは、話してすらくれなかったのに・・・。

「李駆斗、あの子のこと好き?」

「え?―――まあ、普通に。」

そっ、か・・・。

2人は両想い、か・・・。

私、こんな時間が続けばいいなんて―――バカじゃない?

苦しくて、悲しくて、涙がこみ上げてくる。

駄目だ、泣いちゃ駄目だよ、紫昏。

本当に李駆斗のこと好きなら、李駆斗の幸せを願わなきゃいけないんだから・・・。

でも、涙はこみ上げてくるのを抑えてはくれなかった・・・。

「!・・・どうしたんだ?紫昏。」

涙がぽろぽろ、頬を伝って流れていく。

「おい・・・。」

「何でもないよ!」

ついに私は耐え切れなくなって、保健室を飛び出した。