「お・・・はよ。」

「おっ、よーっす、紫昏!」

次の日の朝。

昨日あんなことがあったし、李駆斗が来るか不安だったけど・・・。

良かった。とりあえず元気そう。

「李駆斗、風邪だっていうんだもんな。お前が風邪引くなんて、何かあったのかよ。」

李駆斗の親友の、逢坂尊(おうさかたける)が言う。

胸が少しだけ痛んだ。

李駆斗、昨日のこと誰にも言ってないんだ・・・。

私が行かなかったら、誰にも相談せず、一人で抱え込む気だったのかな。

行ってよかった・・・。

「紫昏。」

李駆斗が、小声で私を呼ぶ。

「昨日はありがとな。紫昏が来てくれて、助かった。サンキュ。」

李駆斗、無理しなくていいよ・・・。

優しい笑顔だけど、どこかぎこちない。

私には、泣きそうな顔にしか見えないよ・・・。

私には、もっと甘えていいのに。

最悪の出会いだったけど、今は誰よりも李駆斗を想ってるんだから。

「何よ、改まって。お礼なんていいってば。」

私まで悲しい顔をしたくないから、わざと明るい声で言った。

「うん・・・だよなっ!オレ、どうかしてたんだ・・・。」

李駆斗は、自分に言い聞かせるようにつぶやいた。


結局、李駆斗の妹のことは誰にも一度も突っ込まれずに、冬が過ぎ、更に季節は過ぎて、李駆斗と過ごす6度目の春が来た。

そしてそれが、李駆斗との別れの時間の始まりだった――――・・・。


小学6年生、春。

クラス替えの掲示板は、人がごった返している。

「紫昏っ!」

向こうからいつもの笑顔で走ってくるのは、李駆斗だ。

「遅ーいっっ!」

「何だよ、人をパシらせといて。そんな言うなら、自分で見に行けよ。」

「だって人ごみ、面倒くさいんだもん。」

「うっわー、最悪。」

私と李駆斗は、いたって普通。

ただちょっと変わったことは、李駆斗が声変わりしたことかな。

って言っても、多分他の声変わりした人に比べると、高いのかもしれないけど。

「そうだ、クラス一緒だった。4組。」

「本当!?ついに6年間、一緒だったね。」

「ああ、紫昏と一緒とか、憂鬱だわ~。」

「何よー!」

「嘘、嘘。冗談だって。」

李駆斗が、笑いながら言う。

3年生の頃から、3年間。私の李駆斗に対する想いは、どんどん強くなっていった。

まだ幸湖には、っていうか、誰にも言ってないけど、幸湖には多分気づかれてると思う。

「紫昏ー!」

「あっ、幸湖!」

幸湖が、尊と一緒にこっちに向かってくる。

「オレら4人、一緒だぜ。4組。」

「良かったねー、紫昏!」

うう、わざとらしく言うの、やめてもらえますか・・・。

「尊とも一緒か。まあ、よろしくな。」

李駆斗、素直じゃないんだけど、嬉しそうなのは分かる。

「おう、よろしくな!」

尊も笑う。

4人はそろって、教室に向かった。