「えぇっ!?今日李駆斗君、休み?」
幸湖が、驚きの声を上げる。
「風邪?」
「うーん、かなぁ。」
風邪にしては、ちょっと様子がおかしかったけど・・・。
おじさんも元気ないみたいだったし・・・。
「そんなに心配なら、今日放課後おみまいに行けばいいじゃん。」
の、つもりだけど・・・。
「ねえ、幸湖、一緒に行ってよ。」
「ごめ~ん、今日塾だから無理なんだ。」
そそくさと行ってしまったけど・・・。
塾なんて行ってないくせに!
もう、しょうがない、一人で行こう・・・。
ピンポーン。
朝と同じように、インターホンを鳴らす。
「はい。」
「あ、佐藤です。李駆斗、いる?」
ガチャ。
ドアを開けて出てきたのは、まぎれもなく李駆斗だった。
「な・・・に?」
「ねえ李駆斗、今日どうしたの?理由言わずに休むから、心配したんだよ。」
「ああ・・・。ごめん・・・・・・。」
予想通り、って言っていいのかな、李駆斗も元気がなさそう。
「大丈夫?・・・ひゃっ!」
問いかけると、李駆斗は私をぎゅっと抱きしめた。
びっくりしたけど、今は何だかそれどころじゃないような気がして・・・。
っていうか、後で思うと、こんなに冷静でいられたことが不思議なくらい。
ドキドキするよりも、心配する気持ちの方が上だったから・・・。
「ど・・・したの・・・?」
つぅっ――――・・・。
李駆斗の頬に、大粒の涙がこぼれ落ちた。
―――――!
「ねえ、本当にどうしたの?!李駆斗・・・っ!」
「・・・なあ、紫昏。」
私を掴む手の力を、さっきよりも強くして言った。
「オレな。」
次の言葉を言った瞬間、私の心臓は止まりそうになった。
「妹が・・・出来ないんだ。」
えっ―――・・・?
李駆斗に妹が出来ない・・・?
「どういうこと・・・?」
「母さん、ずっと家事頑張ってて・・・。父さんが手伝うって言っても、聞かなかったんだ。そしたら―――・・・。」
聞かなくても、先は分かるような気がした。
「流産、しちゃったの・・・?」
李駆斗は私の肩に頭を置きながら、無言でコクリと頷いた。
「・・・オレが悪いんだ。オレがもっと、母さんのこと助けていれば・・・っ。」
李駆斗・・・。
何て声をかけたらいいの・・・?
あんなに楽しみにしてたのに・・・。
でもね、これだけは言える。
「李駆斗のせいじゃないよ。」
「え・・・?」
だって、あんなに妹が出来るのを楽しみにしてたじゃない。
おばさんのこと、気遣ってたじゃない。
「おなかの子は生まれてこれなかったけど、きっと李駆斗やおじさんにも感謝してるよ。あんなに想ってきたんだもん。李駆斗は、立派なお兄ちゃんだよ・・・!」
私の言葉に、李駆斗はまた大粒の涙をこぼした。
私は、李駆斗の背中に手をまわす。
「李駆斗の・・・せいじゃないから。」
何度も何度も、そう言い続けた。
そう、この時から少しずつ、少しずつ、
別れの時期は、近づいていたんだ―――――・・・。