「ちょっと!」

「何だよ。」

私が呼び止めると、李駆斗はむすくれた顔で振り返った。

「李駆斗、あんたまた掃除サボったでしょ!もう、何度言えば分かるの!?」

「別にいーじゃん、掃除なんて。っていうか、そんなに口うるせーと彼氏出来ねーぞ。」

「別に私、彼氏なんかいらないもん!」

小学3年生に進級した私たちは、相変わらず。

周りの人は、「また李駆斗と紫昏の痴話ゲンカが始まった」とか、おもしろがってるみたいだけど・・・。

笑い事じゃなーいっっ!!

全く、李駆斗ったらいつまでたっても子供なんだから!

「紫昏は、李駆斗君の保護者みたいなもんだもんね。何だかんだで、李駆斗君放っておけないし。」

親友の榎並幸湖(えなみここ)が言った。

そうなんだよねぇ。

放っておければ、楽なのに。

放っておけないのは、何でだろう?

「紫昏実は、李駆斗君のこと好きなんじゃないの~?」

「ないな、それは。あんな子供っぽいやつ、好きになんないよ。」

「子供っぽくて悪かったな。」

うわっ!

・・・いつから後ろにいたのよ!?

「オレより小っちゃいお前が言うな。チービ。」

むっかつく!

確かに、1年生の頃は私と同じくらいの身長だった李駆斗が、明らかに私より大きくなったのは事実だけど・・・。

中身が子供だって言ってんの!

「そうだ、紫昏。母さんが、今夜一緒に食事どうかって。」

「え?いいの?じゃあ、行こっかな。」

私の家は父親が小さい時死んで、それからお母さんが一生懸命に働いて私を養ってくれてるから、結構1人の夜が多いんだ。

そんな時は、家族ぐるみで仲良くなった李駆斗のお母さんが、家に私を呼んでくれるの。

「ねえ、紫昏。」

「何よ、幸湖。」

「李駆斗君って、絶対紫昏のこと好きだよね。」

「はぁっ!?」

何言ってんの!?

そんなこと、あるわけないじゃん!

「でも、みんな言ってるよ。李駆斗君が名前で呼ぶの紫昏だけだし、何かしら突っかかってくるから。」

名前で呼ぶんだったら私も一緒だし、第一突っかかってくるのは私にだけじゃないでしょ?

っていうか、あんなやつこっちから願い下げよ!

「もう、素直じゃないんだから。」

幸湖が呆れたように言った。


「ごちそうさまでした!」

その日の夜、私は約束通り李駆斗の家でご飯を食べた。

何だか、あのことを幸湖に言われて以来、李駆斗の顔が上手く見れない。

「・・・なぁ、紫昏。お前、何か変じゃないか?」

家まで送ってくれた李駆斗が、まじまじと私の顔を覗き込む。

トクン・・・心臓が波打つ。

李駆斗の瞳って、キラキラしてて何か綺麗・・・。

よく見ると、やっぱり顔立ちも整ってるし・・・。

考えながら歩いてたら、ゴン!

電柱に思いっきり、頭をぶつけた。

「・・・お前、本っ当に昔からドジだよな。」

李駆斗が、笑いながら言う。

何だろ、この胸がドキドキする感じ・・・。

いつもと違う・・・。

「あーあ、腫れてる。お前んちで冷やさなきゃな。」

李駆斗の手が、私の頭に触れる。

―――ああ、やっと分かった。

これが、恋なんだ。

私の初恋。

私、李駆斗が好き――――。