むかぁし、西法寺ん門徒したちん本願寺詣りぃ行かるごとなったそうですたい。
小僧さまん
「こんたたちんごと”おり”の”わり”の言うとったちゃ、京都じゃ言葉ん通じんけん、わしが良か言葉ば教ゆうだん」
て言うて、毎晩(メェバン)西法寺ん御堂に集まって良か言葉ん稽古して、大分上手になって京都ぇ行かいたそうですたい。
西法寺ん定宿じゃった桑名屋ん二階にあがらいたりゃ、女中さんの来て
「ようおいでやす。あのぉ、お風呂が湧いてますさかい、お入りやしておくれやす」
て言わしたそうですたい。
世話人しとらいた権おじぃの、ここで西法寺ん御堂で稽古して来た良か言葉ば使わんばならんばいと思うて、太か声で
「ほんなら、折角言うてくれらすけん、君が先きぃへえるけん、僕達も後で入(ヘェ)りげぇ来うもん」
て言わいたりゃ、女中さんのびっくりしてはってかしたそうですたい。
ほかんおじぃの
「権しゅう。わりがたぁ、君と僕と逆さめぇ言いよるちゃかっかい」
て言わいたそうですたい。
権おじぃんはるけえて
「なんて、おりがたぁ君と僕と逆さめぇなっとるてや。せからしか、逆さまちゃ何ちゃどうあるか。うんどまぁ僕でちょうどよかりはたすとわ」
て言うて、一人手んげぇどもさげて、威張り威張りはってかいたそうですたい。
*おり→俺 *わり→お前 *へえるけん→入るから *はってかした→行ってしまった
*はるけえて→腹立てて *せからしか→うるさい *もん→だろう(命令気味)
*何ちゃどうあるか→何でも(どうなっても)いいじゃないか
*うんどまぁ→奴(うぬ)どもは、貴様たちは 手んげぇ→手拭、タオル