4月18日 毎日新聞 時代の風 藻谷浩介氏
放射性物質のトリチウムを含む「処理水」のタンクが、東京電力福島第1原発の構内を埋め尽くしつつある。現政権は、2年後をめどに、これを国の排出基準の40分の1を下回る水準に薄めて海に流すこととした。
「処理水」は、放射線で汚染された冷却用の水や地下水を、多核種除去設備(ALPS)に通し、トリチウム以外の放射性物質を取り除いたものだという。残るトリチウムは自然界にも普通に存在する物質で、体内に入っても蓄積されずに排出され、実際に日本や中国や韓国を含む世界中の原発からも、日々海洋に放出されている。だからこそ菅義偉首相は、同原発訪問の際、東電側との間で「処理水を飲んでいいのか」とのやりとりを交わした。しかし、実際には飲まなかった。なぜか。トリチウム以外の放射性物質を、除去しきれていない可能性があるからだろう。そうであれば、トリチウム以外の放射性物質は排出基準以下であることを、第三者が検証すればいい。その上で東電の経営陣や政治家などが、カメラの前で処理水を薄めて煮沸して飲むくらいのことをすれば、漁業への「風評被害」も起きないのではないか。それをせずに「説明」だけを重ねても、世の信頼は得られず、福島の苦しみは軽減されない。足りないのはトリチウムへの「理解」ではなく、日本政府と東電の「信用」なのだ。
筆者も当初は、現政権のロジカルな現実理解力が、前政権には勝ることを期待した。だが、根拠なき精神論の繰り返しの多さに、落胆を重ねている。最近で驚いたのは、3月21日の首都圏1都3県の緊急事態宣言解除に際しての、「感染拡大を二度と起こしてはいけない」との首相の発言だ。先んじて3月1日に宣言解除された大阪府や愛知県での感染再拡大は、当時すでに明らかだったではないか。
察するところ、官僚機構の現実対応力、実務遂行体制は、相当に劣化している。その上に立つ政治家は、精神論を口にするだけで、不備を指摘されれば「誤解を招いたとすればおわびする」と、相手が「誤解」したことにするばかりだ。
しかし、黒船が江戸幕府にそんたくしなかったように、日本の足を引っ張ろうとする国々も含めた諸外国も、原発事故処理も新型コロナも、そんな政治家にそんたくはしてくれない。
時代の風:菅政権の統治機構 幕末思わせる機能不全=藻谷浩介・日本総合研究所主席研究員 | 毎日新聞 (mainichi.jp)







