名前は忘れたが

あだ名は“さんちゃん”

所有車は可愛い形の珍しい車種だった。




そんな

“可愛い車のさんちゃん”が


【吹きかけ男】という

攻撃力が高い妖怪に変身するのだから

人は見た目で判断出来ない事もあるものだ。





さんちゃんとの出会いは

M子のバイト先だった。



チェーン居酒屋で働きだしたM子。


2人組で頻繁に来店していた男達は

ノリが良く

注文などの際

店員のM子を毎回笑わせる


そんな面白い2人組の1人が

“さんちゃん”だ。




さんちゃんの見た目は

M子のタイプだった。



何度目かの来店のお会計で

2人の連絡先が書かれた紙をもらった。




この頃のM子は居酒屋のバイトという事もあり

連絡先を渡され慣れていたが


毎回リアクションを良くし

驚く素ぶりも忘れなかった。


我ながらあざとい女だ。





2人とメールをしていたが

さんちゃんがタイプだったため


デートは

さんちゃんだけの誘いだけ行った。




可愛い車で迎えに来てくれて

何度かデートをして


付き合う事になり


バイト終わりに迎えに来て

M子宅に泊まって帰る


そんな幸せな生活が1ヶ月ほど続いたある日




ついにさんちゃんが

妖怪の顔を現し始めた。




デートの道中の車内


「M子M子!」


赤信号で止まった時に

運転席からさんちゃんが慌ててM子を呼んだ。




前を向いていたM子だったが

『え?!』と驚きながら運転席を見た。




すると


生ぬるい風がM子の顔にかかった。




その瞬間

顔を歪ませて『うわぁ〜』と嫌がったM子。




そう、さんちゃんは


ゲップが出る直前にM子を振り向かせて


ゲップをして顔に向かって


フ〜〜〜とかけてきたのだ。



吹きかけ男 爆誕だ。





やめて〜!と笑いながら嫌な顔をするM子を見て


ケラケラと笑っている吹きかけ男。



よほどリアクションが気に入ったのだろう。



吹きかけ男は

密かに進化をとげていたのであった。




数日後

外食の帰りの車内。




“吹きかけ男”だという事も忘れかけていたM子。




『お腹いっぱい〜美味しかったね♪』

ご機嫌のM子。




そんなM子の目の前に

急に何かが飛び出てきた。



反射的に目を瞑ってしまったが


思わず息を止めた。




オナラを手に包む

にぎりっぺ 

をしてM子の顔の前で手を開いたのだ。




しかも臭い。くさすぎる。ゆるせない。




「どう?臭い?」と

ケラケラ笑って嬉しそうな顔は


もはや妖怪にしか見えなくなっていた。




『本当にやめて!』と少し怒りながら言うM子に


またもや

ゲップ吹きかけをしてきたのだから


攻撃力は半端ない。




2連続で攻撃を受けたM子の

恋心のHPは急激に下がり


そのまま回復薬を使う事も無く

尽き果てた…




吹きかけ男を許せず


家に泊まる事を拒否し

別れを告げたM子。



吹きかけ男は

すがるようにM子に言った。




「ここで口でして」


別れ話の意味を理解していないのか


人通りもある車内で

ズボンを下ろして陰部を露出しだしたのだ。




ゲップを吹きかけるし

にぎりっぺするし クサイし


挙げ句の果てに

車内で陰部ロケットを発射して

トドメをさそうとしているのか?




M子は

狂気じみた 吹きかけ男が怖くなり


逃げるように帰った。



その後

何度か連絡はあったが

無視を続けて


吹きかけ男は消息を絶った。




バイト先にも来店しなくなったが


巧みな話術で

新たな獲物を捕まえて


吹きかけつづけていたに違いないだろう…






【吹きかけ男】完