②はこちら……☆


【イケ契】
Another Story……③




その頃、有馬家では―――

「マリア!」
「……まだ、帰ってないのか?」

「あ、社長……まだお帰りになっていないようですが……」
「いつもなら、とっくにお帰りになっている時間なのですが……」

「連絡は?」

「まだ、ありません…」

「………」



×  ×  ×  ×



どれくらい歩いてきたのだろうか……

私の足は気がつくと、実家に向かっていた
どこか見慣れた景色が、私の気持ちをホッとさせてくれる

(もう、有馬の家には帰りたくない……)

そんな思いが、私の心を埋め尽くす……
と、同時に、実家へと向かい歩く速度が速くなる……

(あの角を右に曲がれば……)


けれど………

(私が途中で契約を放棄したら……)

角を曲がることはできなかった……

今来た道を、重い足取りで引き返す
いろんな思いが複雑に絡み、

(結局、私は何にもできない…私に選択することなどできない……)

今、自分の置かれている状況だけが、重くのしかかってくるだけだった


×  ×  ×  ×


「あっ…あの公園……」

昔よく遊んでいた公園が見える
自然にその公園に足が進む

すっかり日の沈んだ公園には、もちろん誰もいなくて……
シーンと静まり返っていた

私はベンチに腰を下ろし、はぁ~っと大きく息を吐いた
そして、この数日間に私の身に起こった、いろいろなことを思い浮かべてみる


突然降りかかった5000万の借金、返済……
そのための契約……そして結婚……

最初からすべてわかってたはずなのに……
この結婚に恋愛感情などないってことも……
それを求めてはいけない、ってことも……
この結婚は、3ヵ月間だけの契約結婚、
ビジネスだ、と志信さんは言った

私はこの契約で、5000万円の借金の肩代わりをしてもらったのだ

割り切っていたはずなのに……

それなのに……
どうして、こんなにも切なくて苦しいの?
どうして、涙が止まらないの?


『志信は君を愛していない……』
白金さんの言葉が、頭から離れない


「バカだな…私……」
「白金さんの言うとおり……」
「志信さんは、私を愛していない……今も、これから先もきっと……」

(何を期待してたんだろう……?)





≪④につづく≫