2016(平成28)年9月3日(土) くもり

8月に見た韓国映画 『高地戦』 です

2011(平成23)年、制作

この年の第84回アカデミー賞、外国語映画賞受賞作品

韓国国内でも二大映画祭の一つ、大鐘(テジョン)賞では最優秀作品賞

もう一つの清龍賞では撮影賞、美術賞を受賞しました

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南北、朝鮮戦争(1950年6/25~1953年7/27停戦)における

境界線付近の高地を巡る戦いを描いた作品です

朝鮮戦争は日本にとって対岸の火事であり

朝鮮特需で日本の景気は潤ったいうのが大方の日本人の見方ですが

朝鮮人民にとっては、やっと日本の軍隊が撤退し

今度は同じ民族が南北に別れ、戦うという悲劇が繰り返されています

朝鮮戦争の記述の多くは

1951年1月4日、韓国軍後退、停戦協定で締めくくられています

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しかし現実は

南北の境界線を巡り、板門店では南朝鮮とアメリカ対北朝鮮、中国の間で

線引きを巡り長い駆け引きが続いています

南北境界線にあるエロック高地(架空)を巡り

停戦協定が成立した時点でどちらが占有していたかによって

南北の両国に振り分けられます

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停戦協定が今日成立するか、明日成立するかと

韓国軍と人民軍は奪い奪われの死闘を繰り返していました

ところが停戦協定が遅々と進まず2年以上も経過し

両軍の攻防は数十回にも及んでいました

カチンコ カチンコ

映画は1953年の冬、停戦協定の成立する半年前から始まります

この映画の主人公、韓国軍防諜隊中尉カン、ウンピョ(シン、ハギュン)

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ウンピョンはいまだに激戦の続くエロック高地への任務を命じられます

この日、エロック高地に向かったのは

防諜隊中尉のウンピョンと新任中隊長のジェホ大尉(チョ、ジヌン)と

17歳の新兵ナム、ソンシク二等兵(イ、デビッド)の3人でした

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エロック高地を護っているのは南軍ではワニ中隊です

ワニ中隊を取り仕切っているのは何とウンピョンの大学時代からの親友

今は中尉となっているスヒョク(コ、ス)でした

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今から2年半前の開戦当時の1950年6月

ウンピョンは小隊長として人民軍と戦っていましたが

人民軍の猛攻に会い捕虜として捕えられました

              ウンピョン                            スヒョク                     

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人民軍の指揮官ヒョン、ジョンユン隊長(リュ、スンリョン)は

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お前たちが逃げ惑うのは、理由を知らずに戦っているからだ

この戦争は一週間で終わる

おとなしく故郷に隠れ戦争が終わったら祖国の再建に尽くせと

戦士を釈放するのでした

ただこの時、負傷していたキム、スヒョクだけは傷の手当の為連行されていくのでした


それ以来2年半余ぶりの再会のウンピョンとスヒョクです

ウンピョンは弱虫で臆病だったスヒョクがこの2年余の間に中尉に昇進し

たくましく指揮する豹変ぶりに驚くのでした

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さらに現在ワニ中隊を率いているのは

臨時中隊長の大尉シン、イリョン(イ、ジェフン)でした

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若干20歳のこの青年大尉が英雄部隊の異名をとる部隊を率いているとは…

しかしこの大尉は何故かモルヒネを撃ち続けています

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ウンピョンの任務は

戦死と報告された前任の中隊長の死体から味方の銃弾が発見され

ワニ中隊の中にいるはずの人民軍への内通者を報告せよとの任務でした

新任のジェホ中隊長が現れました

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戦場慣れした戦士は

この中隊にふさわしい中隊長かどうかを本能的に見分けます

ジェホ大尉は命を預けられる人物ではなさそうです

身を挺して戦ってきた強者たちです

顔だちも行動そのものも精悍になったスヒョク中尉

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平壌(ピョンヤン)出身で元光福復軍(独立軍)に従軍し

満州で日本軍と戦ったのが自慢でその話を吹聴する

古参のヒョンサム上士(コ、チャンソク)

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酒が好きで、中隊のムードを盛り上げるオ、ギョン中士=軍曹(リュ、スンス)

戦場に酒があるのは不思議ですが

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いつしか気がふれてしまったサンオク戦士(チョン、インギ)

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しかし、ここは南北に境する戦場です

毎日、毎日エロック高地を巡っての争奪戦です

何度も戦闘に付き従ううちにウンピョにもこの戦場の空気が読めてきました

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人民軍(今も戦っているのはウンピョ等を釈放したジュンユン隊長率いる隊)との

何十回ともなく高地を取ったり取られたりを繰り返している間に

奇妙な友情が生まれ出し

高地を手放し、引き上げる際、濠の地下にお互いの酒や食料を

残すのが習いとなっていました

(これが戦場にあって酒がある理由の一つでした)

そのうち、人民軍の兵士たちから南に住む家族や身内宛ての

手紙や物資が置かれるようになってきました

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戦っていても同じ民族、同胞です

ワニ中隊はいつしかそれを届ける役割を果たしていました

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それでも日常茶飯事的に戦争は休む間もなく繰り広げられています

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ウンピョと共にワニ中隊に赴いてきた17歳のソンシク

得意の歌声で戦線夜曲を歌い、兵士からも可愛がられています

ところがある日、ソンシクが狙撃に会います

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ワニ中隊で、最も恐れられている人民軍の2秒と呼ばれる狙撃手でした

撃たれてから2秒後に銃声が聞こえる

680mの距離からでも的を外さず狙える狙撃手です

一発では仕留めず、必ず3発で仕留め

その間、助けに向かう兵士をも狙撃する最大の敵です

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目の前で倒れたソンシクを助けようと手を差し伸べるウンピョを制止するスヒョク

目の前でソンシクを見殺しにしてしまったと

スヒョクをなじるウンピョ

お前は地獄を知らないんだと叫ぶスヒョク

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陰険な二人の間に若いイリョン大尉が割って入ります

やがてイリョンの口から

浦項(ポハン)でなめた文字通りの地獄の出来事が語られます

敵軍に襲撃された南軍は撤退命令で沖合いに脱出

追われた兵士は我先にと逃げ乗り込んできますが

もうこれ以上は乗船できません

舟を出すにも次から次へと逃げ込んでくる兵士で船は立ち往生

この時、イリョンは自らの銃を

味方である兵士に向けめったやたらに撃ちっ放します

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狂気の沙汰ですが、これが戦場です

罪の意識にさいなまれるイリョンにスヒョクは感謝の念を持ち

居合わせた兵士全員に我々が助かったのはイリョンのお蔭だと宣言するのでした

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この修羅場での心の傷は、顔の傷と相まって

スヒョクを勇敢な戦士に変貌させたのでした

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地獄の体験を得ることにより

ワニ中隊は一つの大きな強固な運命共同体になり

罪を負い、罪を負うが為に仲間を思い、敵をも思う中隊になって行ったのでした

ウンピョにもやっとこのワニ中隊の全貌が見えてきました

イリョンのモルヒネに逃れる心理的苦悩

一致団結の隊員意識のなにもかもが

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連日の小競り合いの続く中

人民軍の総攻撃に遇い、南軍は撤退を余儀なくされます

総司令部の命は奪還せよのとの命令です

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軍事作戦も何もありません

上部に絶対服従の中隊長ジェフは玉砕覚悟で死守すると厳命します

この中隊長では全員が全滅です

ジェフ中隊長は葬り去られました…名誉ある戦場死です

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日々、戦場は休む間もありません

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そして運命の日

1953年(昭和28)7月27日午前10時

南北の停戦協定が成立しました

戦場にそのラジオ放送が流れると、停戦の成立を2年以上も

待ち望んでいた兵士は南北を問わず大喜びです

兵士たちは水を浴び喜びを隠せません

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南軍の横を通り抜けようとする隊がありました

昨日までの敵、人民軍との睨み合いです

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ジュンユン隊長の横には

2秒と恐れられた狙撃の名手チャ、テギョン(キム、オクビン)の姿も見えます

何と女性兵士です

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しばらく双方は緊迫の場を持ちましたが

人民軍は黙ってそのまゝその場を去っていきました

共に憎み合って戦う相手ではなく同胞民族です

停戦協定発令の喜びもつかの間

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軍司令部が発した命令は

午後10までにエポック高地を占有しろの命でした

停戦協定は午前10時に成立しましたが

第5条附則63項に、協定の実効は午後10時からと定められています

実行まで12時間あります

南北双方の残された軍に、両指令本部は

双方がエポック高地の占有争奪の決戦を命じました

午後10時の時点でどちらの領土となるかの決戦です

制服組の思惑に軍人はそれを拒否するわけにはいきません

幸いなことにエポック高地は一帯に濃い霧で覆われています

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そんな霧の中、人民軍の方から戦線夜曲の歌声が聞こえてきます

それに応えるかのように南軍方からも戦線夜曲が唄われだしました

何とこの間に高地の霧が晴れだしてきました

米軍機によるエポック高地への先制攻撃が始まりました

追い詰められたように突進する兵士

あと数時間で終わる戦争に命を投げ出したくありません

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何とむごい死者の数です

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あと数時間、生き延びればと思う残忍さです

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ワニ中隊の面々も又、人民軍のジュンユン隊の面々も多数死にました

戦争とは狂気のなせる業です

大国間の面子に翻弄され、人間も心も家族までもボロボロにされ

大半の尊い命は戦場や戦地で散り

帰る故郷さえも廃墟です

戦争はどの民族、人類にとっても反対です


チャン、フン監督作品   見応えのある映画でした