登場人物: わたし37歳 主人43歳
長女 9歳 優ちゃん0歳
次女は、体重650g、身長29.7cmとちっちゃな女の子
今夜が、山で乗り越えられれば大丈夫とか・・・
夕方5時頃、次女をお産し、大部屋に移され
ホッとしたのか疲れて眠りにつきました・・・
すると、夜中に目が覚めて目を閉じると真っ暗な
なんともいえない恐ろしい感じで目が覚めて
また、目を閉じるとその光景が写り、眠れなくなりました
そんな時、ふと思った
まさか・・・次女が危険な状態ではないのか
神様に祈る
どうか、娘をお助けください
そうだ・・・
生きてくれたら希望の光として優希と名づけよう
もし、ダメだったら・・・
優しい香りのように散っていくのなら優香としよう
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そんな事を思いながら、またうとうとと眠ってしまいました
と、突然、長女が病室に飛び込んできました
見ると、朝6時過ぎ・・・
どうしたの?と聞くと、お父さんと来たと言う・・・
え
嫌な予感が頭をよぎった・・・
案の定、看護婦さんが私を呼びに来たのです
行き先は、UICU・・・
手を消毒し、白衣を着て無菌状態で中へ・・・と
主人がそこにうずくまっていました
やっぱり・・・
悪い感は当たっていました
そこには、保育器に入り酸素マスクをした次女が
胸を真っ青になるまで看護婦さんに
心臓マッサージをされていたのです
小児科の先生が、
「朝方、5時頃に心臓が止まり、ずっと心臓マッサージを続けているんですが・・・」
「どうしましょうか?機械で心臓が動いています。続けますか?それとも・・・」
わたしは、意外と冷静でした
どうしてだったのか、今でもあの時の状況はしっかりと覚えています
「わかりました。もう、結構です」
わたしが、そう言うと主人も泣きながらうなずいていました
あの時、先生に「どうにか、助けてください!!」
と、すがり付けばよかったのだろうか・・・
わたしは、冷たい母親なんだろうか・・・
でも、ちっちゃな白い胸に青くなった肌をみるのは
とても辛いものでした
主人は、教えてくれました
昨日、次女が生まれて保育器に見に行った時、
ちっちゃな身体にたくさんの管やら注射やらつけられて
それでも、ちっちゃな手や足をバタバタさせて・・・
見ていられなかったよ
次女の生きた姿を見たのは主人だけ・・・
わたしも、あの子の生きた姿は見ていません
病院と言う所は、悲しむ暇もなく
産着など用意しているはずもなく
病院用の白い産着を着せられて
私達夫婦のもとに連れてこられました
そして、たくさんの書類を書くのに泣く暇さえありません
生きて生まれてきたので、出生届、そして死亡届
なんとも、複雑な気持ちで淡々と済ませていきました
手続きを済ませ外に出ると、何も知らない長女が
「わあ~! 生まれたんだね! わたしの妹!!」
「抱かせて、抱かせて!!」
と、引き取るように抱きかかえて・・・
「きれいな顔だね! 色もとっても白い美人さん!」
確かに、超未熟児特有の黒ずんだ肌とは違い
色白で血管等も浮き出てない
本当に綺麗な顔の女の子でした
無邪気に、喜ぶ長女に本当のことを話すと
無言で、抱きしめていました
「寝てるだけだよね・・・寝てるだけだよ・・・」
と、いいながら泣きじゃくっていました
次女を連れて家に帰らなければなりません
家族4人で揃って車に乗ることがこんな事になって
帰り道、いろんな所へ行きました
綺麗な花畑でしょう
ここが、学校・・・ここが、動物園・・・
優ちゃん、ここが海だよ
・・と、家族4人で海を眺めていました
優ちゃんは、長女がずーと抱いて
いろんな事を話しかけていました
涙だけじゃあなく、笑って話しかけていました
ここで一緒に遊びたかったね・・
一緒にいっぱい喧嘩したかったね・・
優ちゃんを抱いた長女の後姿が泣いていました
それでも、一生懸命話しかけて同じ時間を
大切に過ごしているようでした
ここが、お家だよ
ずーとここで過ごせるはずだったのにね・・・
長女が言いました
「お母さん、優ちゃんはとってもきれいな顔をしているね」
「きっと、わたしよりずっとずっと美人だよ」
「目を開けたらどんな顔なんだろうね」
涙がとめどなく流れました
「お母さん、泣いたら優ちゃん悲しむよ」
と、長女も泣きたいのを必死でこらえているようでした
この世にたった12時間しか生きなかった優ちゃん
わたしが、もう少し我慢していたら助かったのだろう
わたしは、優ちゃんがお腹に入ってくれた時も
心から喜んでやれなかった
悩んで、おろす事まで考えて・・・
辛かったろう・・悲しかったろう・・・
ごめんね・・母さんと呼べないよね
わたしは、あなたを産んでよかったのかな?
苦しめるためにあなたを産んだのだろうか
あの時、見た悪夢はやはり優ちゃんが
生死をさまよっていた時の苦しみだったのでしょう
わたしは、あの子の後を追いたかった・・
でも、長女を残していけば、また長女が苦しむ
もうこれ以上、娘を悲しめたくない
子どもが授からないと思っていたわたしに
神さまは二人も授けてくださった
それを感謝しなければいけない
生きている娘を守ってやらなければいけない
優ちゃん、あなたの事一生懺悔しながら生きていくから
ありがとう・・・
お母さんの資格なんてないけど
生まれてきてくれてありがとう
みんな、あなたの事絶対忘れない
あなたが12時間生きてくれた事
絶対に忘れないから・・・
優ちゃんに、帽子と綺麗なベビードレス、靴下
そして、長女から可愛いくまのぬいぐるみを
添えてやり、天使になりました
子どもは本当に宝物です・・・
その後に続く・・・