じっとりとした肌が不快感を膨らませる、熱を持った闇が渦巻く夜
蜂蜜の様な喉を刺す風味に少し眉をしかめつつ酒を飲み干した
やけに体が重いな
宵闇は熱を持つのみではなく、感覚も鈍らせるのか酷く苦しい
グラスに入っている氷が不意に声を上げる
からん
からん…
からん……
…?
何故響く?
トンネルでの音とも違う、そのゆっくりと反響した音は実に不愉快に脳に届いた
ここは単なる一室、私の部屋だ
何故…?
疑問は脳を過り眠気と酔いを溶かし始める
息遣いに混じり溶けた眠気は宵闇に消え去っていった
思えば何時から私は酒を飲んでいた?
ここに腰を掛けたのは?
起きたのは何時だ?寝たのは?
疑問は疑問を呼ぶ
しかし答えを求める手は空を裂きまた息遣いと共に宵闇に消えてゆく
意識はずっとあった…あったのか?
闇
目を閉じていたのか開いていたのか
意識とは何か
その全てを闇は溶かし疑いを疑いのまま包み込む
兎に角まずは明かりだ、自宅ならば大体の位置は解る
ふ、と立ち上がりその場で手探りに明かりの種を探す
どんっ
闇に伸ばした手は容易く壁に当たり、微かな鈍痛を生んだ
壁はひんやりとした空気を纏っており、多少なれど火照りが和らぎ心地好い
壁、壁にはスイッチがある筈だ
既に酔いなど無い頭を動かし、壁添いに確認して行くのだが一向に引っ掛かりはない
引っ掛かりがまったく無いのだ
おかしい、壁はこちら側しかないのか?
試しに壁に背を当て真っ直ぐ進む、すると数歩で向かいの壁にたどり着いた
ならば、と壁から壁の距離を半分程の場所から今まで座っていた方向へ向かう
しかしまたも一向に引っ掛かりはない
何かにぶつかる気配もない
ここはどこだ?
改めて疑問が過る、今度は恐怖も付いて来ていた
闇の熱でじっとりとした肌は乾く事も無く、かといえば雫が滴る事も無い
今あるのは宵闇の暑さと寒気のみだ
何処へ向かえば良いのだ?
このままでは気が狂ってしまいそうだ
見えぬ先、死が脳裏に浮かぶと背の髄が抜けるような気がした
ひたすらに歩いてゆく、座っていた場所など当の昔に過ぎ去っているだろう
恐怖に力が抜ける度に早まる歩みは暑苦しい闇の熱気を寒気に変えていった
…気が付くと冬のように寒くなっていた
熱気等感じない、早まる歩みは焦燥感から最早走っている様だ
暗い
死ぬのか
嫌だ
助けてくれ
助けてくれ
助けてくれ
助けてくれ
助けてくれ
助けてくれ
呼吸は乱れ、喉は枯れ、酒の刺すような甘味だけがねっとりと喉の奥に未だにこびりついている
まだ暗闇に終わりはない
助けてくれ
祈りは届かない
助けてくれ
闇に終わりはない
助けてくれ
「お目覚めかい」
頭の鈍痛とまぶしさに眩む目を押さえつつ声の主に返事を返す
「ああ、お早よう。ここは?」
「わかるかい?病院だよ、君は道路で倒れていたんだ」
「そうですか、助けていただいて有り難うございます」
「なぁに、心配は要らない。数日すれば退院出来るようになるさ」
「解りました。あぁ、後にちゃんとお礼に伺いたいのでお名前等を教えて頂きたいのですが」
「じゃあ、お大事に」
パタン