目をつむってみる。


先生のうるさい声、飛行機の飛んでいる音、体育ではしゃぐ生徒の声。

全てが煩わしい。


もう机に伏せて眠ってしまおうか。

早く終わらないか。


そんなことを考える、秋が始まった頃の高校3年生の私。

15年間住んできた家を高校入学と同時に出た。

それから2年。久しぶりに訪れてみた。


家の横には昔母が育てていた花壇の花たちは消え去り、代わりに屋根まで届きそうなあさがおが植えてあった。

私たちが使っていたボロボロの物置はなくなってしまっていたけど、屋根と柱だけの、今にも壊れてしまいそうな車庫はまだ残っていた。


いえはなにも変わってなくて、驚いた。


よく知って見慣れているのに、今はもう私たちのいえじゃない。

もうあの玄関を開けてただいまを言うことはできない。

お母さんがおかえりと言うことも、晩御飯を作っている時のいい匂いも、お父さんが帰ってくる車の音も、なにもない。

そんなことを考えて、15年間の想い出を頭の中で思い出していたら、少し目の前が滲んだ。


古臭くて、窓や玄関の鍵が閉めづらくて、トイレはぼっとん便所で。

住んでいたころはこんないえ早く出たいなんて思っていたけれど、今は戻りたいなんて思っている。

家族5人で過ごした時間は本当に短い間だったけど、とても楽しかった。

今、私たちのいえだった家にどんな人が住んでいるのか知らない。

どんな人でもいいけど、これから先、壊されないといいな。


私は踵を返して来た道を戻る。

坂は急で、帰りは下り坂ですいすい下りられたけど、のぼるときは相変わらず息が切れた。

外からごうごうと音がする。


目を瞑ってもなかなか眠れなくて、ベッドから出て窓を開けてみる。

街頭に照らされた木々が強い風に揺らされてざわざわと音を立てる。

雨も少し降っている。風に流され、地面に叩き付けられる。


夏も通り過ぎ、秋が近づいているこの季節は少し肌寒い。

風にあたりながら思いにふける。

今日生きていたら誰かを好きになれるだろうか。


そんなことをボーっと考えていたら頬を雨が掠った。

・・・寒い。

もう中に戻ろう。


私は冷たくなってしまった身体を自分で抱きながら窓を閉めた。