「世界湖沼(こしょう)会議」の歴史を振り返ります。(杉崎賢次郎)

滋賀・琵琶湖で第1回

世界湖沼会議は、1984年に琵琶湖畔の滋賀県大津市で初めて開催されました。研究者だけでなく行政、住民も加わり、相互の交流を深めつつ世界の湖沼環境保全について話し合いました。

これを機に、滋賀県が同会議を主催する「国際湖沼環境委員会(ILEC)」を設立しました。2年に1度、世界各地の湖畔の都市で開かれるようになりました。

アメリカ(ヒューロン湖)、ハンガリー(バラトン湖)、中国(西湖)、イタリア(マジョーレ湖)などを巡回しました。

■ブラジル地球サミット

1992年、ブラジルで開かれた地球サミットでは「地球のことを考えよう。行動は地域から」が標語でした。

しかし、湖沼浄化を考える場合には、逆の言い方が有効なのではないでしょうか。

その後の世界湖沼会議では、「あなたの身近にある湖沼について考えよう。そこで気づいたことに基づいて、世界的な活動を起こそう」と呼びかけられました。

■茨城県土浦市とつくば市で第6回大会

第6回大会が、1995年10月、茨城県土浦市とつくば市で開かれました。テーマは「人と湖沼の調和」でした。湖沼の持続的活用と環境保全に焦点を当てました。国外からは、75か国、421人が参加しました。

茨城県土浦市とつくば市の世界湖沼会議には、企業の参加を新たに呼びかけました。企業の積極的役割を模索したり、環境教育の大事さを考える分科会も設けられ、より一層、意義ある会議になったといえるでしょう。

■国際湖沼環境委員会の調査

世界湖沼会議の第一回目が開かれた後、国際湖沼環境委員会が、世界の主な217湖について情報収集にあたってきました。

湖沼、ダム湖の役割は実に多面的です。まず湖は貴重な固有種を抱え、独立した生態系を形作る「小宇宙」だといえます。独立の生態系というと、ガラパゴス諸島(エクアドル)などの島を思い起こしますが、バイカル湖(ロシア)、タンガニーカ湖(アフリカ)といった古い湖もまた、守るべき独立した生態系を持っています。

また、湖沼は飲料水であり、漁業、鉱工業といった生産活動の基盤となっています。湖岸の人々の精神的支柱というロマン性も持っています。保全・管理を考える時には、集水域、流域までを含めて考えなければなりません。これを見失って、湖だけの狭い範囲を守ろうとしてもだめです。

■世界の湖の6つの問題

調査の結果、世界の湖が抱える問題は6つに大別されます。〈1〉粘土、土砂の流入〈2〉水位、水量の低下〈3〉毒物、農薬による汚染〈4〉窒素、リンによる富栄養化〈5〉酸性化〈6〉これらの一つ、または複数の影響による生態系の変化・破壊です。

特にヨーロッパの湖沼は、酸性雨の影響が大きいといえます。スウェーデンでは4000の湖沼がpH5以下。石灰をまいて回復に乗り出している所もありますが、ほとんどは生物がすめない状態になっています。

霞ヶ浦(茨城県)でも問題になっている富栄養化が進んでいるのは、ノルウェー、スウェーデン、ドイツ、スイス、オーストリアなどです。スイスなど3か国にまたがるボーデン湖は大きさが琵琶湖とほぼ同じで、対策についても参考になります。

●北米の五大湖は約2400万人の水源

北米の五大湖は約2400万人の水源だから、水質変化の影響は大きいです。カナダ、アメリカ両国は五大湖水質国際協定を結び、汚染除去などの対策をスタートさせています。これも具体的な活動内容、費用の負担方法などで日本の参考になります。

●アジアの湖

アジアの湖沼も深刻です。文明が早くから開け、人口が多い中国では「湖はたんぱく源の魚を養殖する場」という考えが定着しています。たとえば、洞庭湖(中国湖南省北東部)の漁獲量は霞ヶ浦の4倍以上、年間7万トンもあり、中国のほとんどの湖では、かなり昔から富栄養化、超栄養化が進んでしまっています。

フィリピンのラグーナ湖は首都マニラ近郊にあり、用途が多様で霞ヶ浦と条件が良く似ている面もあるので注目したいと思います。洪水防止や都市下水対策がかなり遅れていて、霞ヶ浦をほうっておいたら、ここまで厳しい状況に追い込まれるのかという例だと思います。改善には100年くらいかかるでしょうが、対策は急がなければなりません。このほか、ロシア、アフリカなどでも深刻な状況の湖が多くあります。