舞台が暗転し、そして


下座の三味線、太鼓のお囃子が流れていてくると


下手にスポットライトがあたり


暗幕の前


そこには、羽織袴姿の和装の男が立っている


そして、肩から紐で大きな見台を


ぶら下げている


「皆様、満員のご来場、熱く御礼申し上げます、わたくし、講談を生業に致します

西海亮丿助という半人前の芸人でございます。

皆様、割れんばかりの拍手、有難う御座います


そう亮ノ助さんがいうと、彼は閉じた扇子を

上に上げ上げして、拍手を誘う

そして、指揮者のように三角に振ると

なれた観客は、それに合わせてパンパンパン

と手拍子を打つ

「素晴らしい!」

講談師は、先程からしている自らのマスクを

扇子で指して

「ところで、先程からしてますこの、マスク

気になりますよね。今は大正十年、スペイン風邪が流行っております。多分今から百年後は

マスクをしなきゃ表を歩けない、そんなことになってるんじゃないか、そう思うわけであります」

「ところで、公演に先立ち、一つ注意事項が

あります。おしゃべりはやめてほしいんてすが

お笑いになるのは大いに結構。面白かったら大いに笑って、面白くなかったら、ちょっとだけ

笑って頂いて。」

「今からちょっと笑う練習をしたいと思います、笑う練習てのはちょっとおかしなことですが」

講談師は、面白いポーズをとる

「有り難うございます」

「さて、本お芝居のことでございます

登場されるのは、立てば芍薬、座れば牡丹

歩く姿は・・・へーっしょん!!」

講談師、大事なところで、くしゃみが


その瞬間、バイオリンの音が流れ舞台上手に

スポットライトが当たると黒い燕尾服姿の

男が、手を水平に振り払うと

「そのお方こそ、円条寺家、華族令嬢の一人娘

円条寺かおりお嬢様なるぞ」

大事なセリフを奪われた講談師あわてて

「なんだお前は!」

「お前こそなんだ!」とやり返す

「何おっ!この野郎!」

「私こそ、今は飛ぶ鳥を落とす勢いの

活動弁士、滝沢秀水なるぞ、時代遅れの

無用の長物は引っ込んでろい!」

「何おう?お前なんて、機械が壊れりゃ

お祓い箱の何も出来ない能無しだろう」

「なにおう!」「なんだと、この野郎!」

二人は舞台中央へ喧嘩腰で寄っていって

言い争いを始める始末。

そして、二人の、無益な争いを聴いていた

かおりさんの声が

「ちょっと、二人共いつまでやってるの。

お客様がお待ちじゃない。早く次を

進めてよ。」

コミカルな音楽に合わせて、

そう言われた二人は慌てて下手、上手に戻り

二人あわせて

「春や春、大正浪漫の花が咲く

円条寺かおりお嬢様の、儚くも

楽しいお芝居を、とくとご笑覧あれー。」

二人はそう言うと、客席に向かって深々と

頭を下げ、拍子木がカンカンカンと鳴り響き

第1場の幕が開ける。




右、活動弁士、滝沢秀水役のパーマ大佐
左から2番目講談師、西海亮ノ助役
のマシンガンズ西堀亮さん。

※活動弁士、活弁士:活動写真(映画)のナレーター、当時映画は無声映画だったので、
映画上映に合わせて内容を実況する職業が
ありました。



同じく、活動弁士、滝沢秀水役の
マシンガンズ滝沢秀和さん。
滝沢秀水は、滝沢さんの名前のもじり。
お二人共、同じ服装同じ配役同じ台詞です。
実はこの、活弁士、滝水秀水さん
活弁士とは別の顔を持っています。
ふたりともキャラクターが違うので
そのお芝居の違いも面白かったです😆


ギャグ要素に関しては、明治座初期

バージョンでは、ありませんでしたが

明治座後期、新歌舞伎座では

パーマ大佐の明らかに大きすぎる

マスクを、そんなつけ方じゃ意味ないじゃ

ないか、と講談師が、ツッコミ

うるさい、これしかなかったんだよ!

と活弁士が返し、笑いを誘っていました😆