「なんで佐藤くんは父さんに告白しようと思ったの?」
冬湖ちゃんがふと思い立ったようにそんなことを尋ねてきた。
電車の待ち時間で聞くにしてはヘビーだなあ、なんて言いたくもなるけれどそれがあまりにも心からの質問のようだったので僕なりに考えてみる。
「告白した理由かあ」
「だって、言わなくたって一緒にいられるのに」
「僕のものになって欲しいって言うエゴがあったからね」
豊さんには奥さんがいて、僕らが出逢ったときには心は奥さんのところにあった。
それは豊さんがひとりになってからも続いていた。
「佐藤くんにもエゴってあるんだね」
「多少はね」
恋は欲とエゴで出来ている。
両思いになってずっと傍にいてくれるってわかれば、そういうものを脱ぎ捨てていけるのだと最近思う。
「誰かのためじゃなくて豊さんのためにだけ松明を運んでいたいから」
「……松明って何?」
「そういうことわざがあるんだよ」


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「to carry a torch for someone」(誰かのために松明を運ぶ)