実家で井澄はそれはそれは熱烈に歓迎され、私はさっさと客間に引っ込んで持ってきていた電子書籍を読みふけった。
そうこうしているうちに夜にり「年越しそば出来たよー」という声で茶の間に呼び出される。
憎悪と呼ぶには生ぬるく嫌よ嫌よも何とやらで済ませるには尾を引きすぎた、この感情は一体どこへ行くのだろう。
そばを飲み込みながらそんなことを考える。
「智幸、明日のことだが」
そばを食べ終えて父が切り出した。
「夜6時に予約してあるから4時ぐらいに出る、初詣とかはそれまでにしておけ」
「わかった。おやすみなさい」
そうこうしていると井澄もほろ酔いで戻ってきて、そのまま手をつないで寝た。
酔っぱらいの子ども体温がこんなにも心強く思える夜はきっとこの先ないだろう。

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夜明け前に目が覚めると父親が起きて庭で初日の出を待っていた。
「……新年あけましておめでとう」
「おめでとう、初日の出拝まないのか」
「別にいいよ」
そういえば私が中学生の時に死んだ祖父(血縁でないほうの祖父である)は毎年初日の出を庭で拝んでいた人であったが、父もそうであるらしい。
祖母の嘘によって他人の子どもを跡継ぎに据えてしまった祖父であるがこうした行動の一つ一つに祖父の名残が見いだせる。
老いるごとに増していく背中の丸みと小ささもどこか亡き祖父を思い出させた。

(なんというか、血じゃないよな……家族って)

父と祖父に血の繋がりはない。しかしそれでも立ち居振る舞いに祖父の名残が見える。
遠くの山の向こうから朝日が差し込んでくる。初日の出だ。
登りだした太陽を拝む父は祖父に似ていた。