「そういやクリスマスプレゼントなにがいい?」
どうってことないふりをした井澄が私に聞いてくる。
もうそんな時期だもんなあ、という事を思い出して「半纏」と答えると「はんぺん?」とぼけ返された。
「は・ん・て・ん。そのボケは面白いからいつか使うけどはんぺんは要らない」
「あー、半纏ね。でもなんで?」
「朝とか帰ってすぐとかに着れれば暖房で部屋が温まるまで便利かなって」
「じゃあそうする、クリスマスに届くようにしとくね」
「クリスマスにも舞台だもんな」
一時期仕事という仕事が全滅した井澄だが最近は仕事量が戻りつつあり、このクリスマスには大阪の舞台に立っている予定だ。
それ用に何か用意できればという気持ちは暖かい。
「でも注文はしなくていいよ」
スマホで注文しようとした井澄を止めて「明日ふたりで買いに行こう」と告げる。
「三週間後のプレゼントより明日一日ふたりで歩いてるほうが楽しい」
「……智幸さんすっかり俺のこと好きになってくれたよね」
「そうだな」

***

翌日、早くもクリスマスムードの街で冬物を着こんだ私と井澄がぶらぶらと歩く。
せっかくだし久しぶりに百貨店行っていいやつを買おうということで散歩がてら浅草松屋のほうまで歩いていくことにした。
冬の隅田川を吹き抜ける冷たい風に、冬物のコートを着た人々に冬の木枯らし。
「……冬風ってきついよねえ」
「うちの実家来た時に空っ風体験したろ」
「そうだけどさ」
上州の凍てつくような空っ風に比べれば東京の木枯らしなんぞ大人しいもんだが、井澄は色んな地域を転々と暮らしてきたからもっと暖かい地域の冬を知ってるんだろう。
「どうせなら新しい手袋も買うか、井澄スマホ使える手袋持ってなかったよね?」
「うん。どうせなら揃いで買う?」
「私のまだ使えるから却下」
フラフラと冬の街を歩きながらどうでも良い話をする。
プレゼントよりもこういうどうだっていい一日のほうがよほど愛おしく貴重なのだが、黙っといてやろう。


しばらく更新止まってたので久しぶりに井澄と智幸さん。冒頭のやり取りが描きたかったのもある。
最近ツイッターで交流企画に参加してたせいで全然更新できてなかったけど、クリスマスも近いし時節ネタもうちょい書きたいですね