夜中まで撮影が推してしまった日はげんなりする。
役者という仕事は好きだけど夜中までずっと起きて自分の出番を待つのはつらいし、寒くなってくると冷えがつらい。
「ただいま」
リビングでは智幸さんがスリープモードになっていたパソコンに突っ伏すように眠っていた。
身体を起こしてあげてデータを確認する。メールソフトが送信完了になってるという事は完成原稿を送った後に力尽きてしまったんだろうか。
「……いすみ?」
「起きたんだ」
支えていた腕を離すと壁の時計を見て「結構寝てるな」とつぶやいた。
「うん、顔にキーボードのあとついてるよ。夜食とか要る?」
「夜食ー……うん、シャワー浴びてきていい?そのあと軽く食べて寝るわ」
智幸さんがパソコンの電源を落として椅子から起き上がる。
寝落ちしてたという事はお風呂にも入ってないのだろうし「いいよ」と軽く返した。
俺は撮影所で夕飯食べたしシャワーもしたんだけど、ちょっと小腹空いてきたから二人分にしよう。
冷凍のロールパンはオーブンで5分、冷凍ポタージュはレンジで3分。
全部出来上がったころには髪の毛をナイトキャップで覆った智幸さんが出てくる。
「今日ハロウィンだしかぼちゃのポタージュにしたよ」
「あれ今日って30日……いや、もう日付変わったのか」
「そうだよ。ほんと撮影が押しに押して家着いたら日付変わってた」
「でも結婚してから初の主演ドラマだろ?ようやく干され状態から脱却できたし良かっただろ」
「嬉しい?」「自分の男が認められたから嬉しい」
間髪入れずに帰ってきた答えに顔が緩んだ。
熱々のカボチャのポタージュは優しい甘さが広がってきてホッとするし、パンも焼きたてフカフカで美味しい。
こんな夜更けに好きな人と一緒に食べてくれるってしあわせだ。
「食べたらさっさと寝て次の仕事に備えないとな」
「智幸さんほんとにワーカーホリックだよね」
「でも仕事の次ぐらいには大事にしてる」
「ありがと」