「バレンタインのお祝いです」
年下の恋人が渡してきた小さい箱には、小さな紫色の石と青っぽい石が入っていた。
「……これなんかの宝石?」
「はい、この間御徒町の宝石商の所で買ったアメジストとアレキサンドライトです」
サラッととんでもないことを言い出してきたぞこの子。
たびたび出てくる爆弾発言にはそろそろ慣れ他つもりだけど今回は度が過ぎる。
「前々から指輪あったらいいなーって思ってたんですけど、最近御徒町の宝石問屋街行ったらこれが目について。アメジストって2月の誕生石でしかも愛の守護石だっていうし、隣にあったアレキサンドライトも6月の誕生石で身を守る石らしいっていうから衝動買いしちゃったんですよね……」
もう何も言えなくて宙を見上げる。
ちなみに2月は佐藤くんの、6月は俺の誕生日である。選んだ理屈はわからないでもない。
「うん、ツッコミどころしかないんだけどまず財布大丈夫?」
「貯金はもうないですね」
「今度からお金は計画的に使いなさいね?いい?」「はい」
流石に今回はやりすぎたと思ってるのか素直に受け入れてくれた。
さて、問題はこの宝石だ。
「……指輪作ってくれる人、探さないとな」
大枚叩いて買ってくれたものだ、大切に美しいものにしてもらう必要がある。
「それなんですけど……うちの両親の結婚指輪を作ってくれた職人さんが三鷹にいまして、その人にお願いしていいですか」
「じゃあその人にしよう。けど製作費は俺が全額出すからね、間違っても自分で出そうなんて思わないこと!」
俺が言えるのはそれくらいだ。
いささか値段は怖いけど、これ以上この子にお金を出させるわけにはいかない。年上としてのせめてもの見栄である。


……で、それから1年。
お互いの意見をすり合わせ、職人さんと打ち合わせて作った指輪が届いた。
「やっぱ指輪があるって嬉しいなぁ」
「そりゃあ良かった」
充希くんの左手薬指にはアレキサンドライトの指輪がきらりと光る。
そして俺の左手薬指には二つの指輪。一つはひーちゃんと選んだティファニーの指輪、もう一つが今回作った指輪だ。
指輪を作るとき、俺の出した希望は『二つの指輪がデザイン的に喧嘩しないこと』だった。
死別から10年過ぎたとしても、指輪を外してひーちゃんと一緒にいたことをなかったことにしたくなかったのでそうお願いしたのだ。
同じぐらい大切にしたいという俺のわがままを受け入れてくれた充希くんの気持ちは計り知れない。


(……ひーちゃん、もしそっちで三人一緒に過ごすことになったらよくしてあげてな)

未来の話を遠くのひーちゃんに、祈る。