大学の期末試験明けの土曜日、豊さんとデートすることになった。
半分ぐらい買い物が目的だけれど行き先は豊さんのほうで買いたいものがあるからと行き先は銀座になり、大人のデートに浮かれてどこに行こうか候補をまとめたリストを作ってしまった。
(……まあ銀座なんて行ったこと無いしな)
銀座は大人の街というか敷居が高い印象があって20歳そこそこの若造が行くには敷居が高すぎる。
待ち合わせは午前9時、東京駅の丸の内広場。
これは僕のほうでデートっぽいことがしたいとお願いしたのだが、丸の内はラグビー関係のイベントにもよく使われてるしそれを見ながら歩くつもりでいる。
スマホで今日のデートプランを確認していると「すいません、」と声をかけてくる。
大きなトランクケースを引きずったきらびやかな雰囲気の若い女性からは、花の香水が強めに香って来た。
「お兄さん可愛らしいですね、おいくつですかぁ?」
「え、21ですけど……」
「21でこの雰囲気なの?かわいいー!よそから来たの?」
「え、一応都内ですけど……」
「マジで~!?え、じゃあ彼女いる?」
その瞬間になってようやく気付いた。これナンパだ。
東京駅前だしてっきり道でも聞きに来たのかと思ったが、これは絶対そうじゃない奴だ。
「あー……彼女 は いないですね」
「そっかー、お姉さん興味ない?あたし24なんだけど」
どうするかなこれ、と思いながら周囲を見渡した瞬間だった。

あ、豊さんこっち見てる。

待ち合わせ場所にようやく着いたらしく呼吸が整いきらない豊さんは、不安や困惑を隠しきれないまなざしでこっちを見る。
何故が脳裏によぎったのは死亡フラグという単語だった。いや別に死ぬわけじゃないけど。
「すいません、僕彼女はいないけど彼氏はいるんです」
豊さんにも届くようにすこし大きめの声で相手にそう告げると、彼女のほうは意外そうに聞いてくる。
「え~、それもったいなくないの?」
「最高の人ですよ」
それじゃ!と言ってさっさと豊さんに駆け寄ると、先ほどの女性にも分かるように思い切り目立つようにハグをする。ほんとはキスもしたいけどさすがにそれは目立ちすぎるのでやめておく。
変に卑屈になったり不安になんてならないように。僕にはあなたしかいないんだってわかるように。
「お待たせしてすいません!」
「……いいのか?」
「大丈夫ですよ、豊さんより好きな人はいないので」
にこっと僕が笑えば豊さんのまなざしが和らいだ。
「ほら、行きましょう!リーチさんの銅像見たいんですよね」
「そういえば言ってたな」
ぎゅっと手をつなげばもう今日はナンパなんかされないだろう。
今度の誕生日にでもナンパよけの指輪を買おう、心からそう誓った瞬間だった。




豊さんもたまに真剣に悩む瞬間とかあるだろうな、って思った話