「先輩たちってたまに距離感が恋人同士みたいですよね」
「「うん?」」
突然ちーちゃんが俺たちを見てそう呟いた。
「いや、昨日先輩が出てたバラエティの感想眺めてたら『スペダン、カップルみたいw』とか『おまえらで結婚しろ』みたいなコメント出て来たんで改めて見てみると距離感近いよなあって」
「半分ウケ狙いだけどね」
万洋が俺のこと大好きなのは概ね事実だし、俺も万洋の事は好きだ。ぶっちゃけほっぺにちゅーぐらいまでならできる。
ただ恋愛感情で好きか?と言われるとなんか違うのだ。少なくとも性的な意味では好きじゃないし、かといって万洋より優先できる人は?と聞かれると家族ぐらいしか思いつかない。
「そういう方向のネタってウケますもんね、最近はやり方間違えると炎上しますけど」
「さすがにそこは分かってるよ」
自分たちがBLという視点で見られてることは自覚してるが、そこも商売の一部かなとは思ってるので敢えて強調してる節があるのは認める。
もちろん本心からお互いの事が好きでコンビを組んでるのだ。そこは嘘じゃないし隠す必要はない。
「好きなことに嘘ついてもしょうがないし、お互いがお互いのこと好きってだけで炎上するほど世間は馬鹿じゃないでしょ」
「そうですけどね」
ちーちゃんが視線を外に向けたのは、多分あの子の事を考えたんだろう。
付き合ってることを一応隠してるはずなのにあんまり隠す努力してないもんな……。
「結婚ってしたほうが良いのかなあ」
「先輩たちも30半ばですし、またゲイ疑惑とか言われますよ」
俺たちがテレビに出始めた頃に一度そういう記事が出たことがあり、否定するかしないのか悩んだけど結局無視を決め込んだ。
ちょうどその頃は試しに恋人として付き合ってた時期だったので嘘ではなかったのだ。
事情を聴いた親父さんは『まあ別に仲がいいに越したこたぁねえけどな』と呆れながら、俺たちに身を固めることを勧めた。
それで一度は恋人探しをするも誰かと籍を入れるところまでは至らずに今に至っている。
「一人と一人で生きてくほうが楽だからなあ」
「いっその事独身主義ってことにします?」
「それだと万が一好きになれる人と出会ったときが面倒じゃん」
堂々とカップルの看板を掲げられるような感情も、この先仕事に生きていこうなどという気概も、所帯も持たず気ままに恋愛ごっこを楽しもうという気持ちも、特にない。
なのに世間は関係性に意味を欲しがる。
「……めんどくさくないですか、それ」
「しょーがないよ」
淹れたての紅茶をちーちゃんに一杯渡してあげると、自分の面倒臭さを思った。




クソデカ感情は名前がないから尊いのではとかなんかそういう話。