「フランシスと結婚しようと思う」
オンライン越しに家族に告げると、父は静かに涙を流し姉は「日程決まったらすぐ言えよ!休みもぎ取るから!」と言い出し妹たちも大混乱だった。
プロポーズから一年かけて対話と考察を繰り返した果てにたどり着いたその結論は、日本に戻らないという事でもあったけれど「お前が選んだのならしょうがないな」と父は笑った。
「それでちょっと挨拶と欲しいもあるから一時帰国しようと思うんだけど」

花嫁衣装に縫い込んだ

私にとっては久しぶりの、夫となる人にとっては初めての日本の地を踏んだのは肌寒くなってきた秋の事だった。
「おかえり」
「ただいまお父さん。あ、この人がフィアンセでー……」
「ハジメマシテ、ヨロシクオネガイシマス」
付け焼刃の日本語で簡単に挨拶してから「そうだ、ご飯とかどうする?」といきなり聞いてくる。
「機内食食べてきてるから大丈夫。ちょっと時差ボケで眠いからうちで寝たいかな」
フランシスにとって今回は初来日なので観光させてあげたい気持ちはあるけれど、それ以上に眠気が強くてしょうがない。
そう告げると「了解、荷物持とうか?」とほほ笑んだ。

***

日本の実家で一眠りして起きた時にはもう夕方だった。
フランシスのほうは眠りが浅かったせいかまだまだ深い眠りの中にいて、彼を起こさないようにそっとベットを抜け出した。
「お父さん、」
「夏海起きたのか」
「うん、フランシスはまだ寝てるけどね」
帰国してすぐに寝てしまったのでお母さんに声をかけていなかったことを思い出して、お母さんの写真に手を合わせているとお父さんがお茶を淹れてくれた。
「この間連絡くれたとき、ドレスを自分で作るから布が欲しいって言ってたよな」
「うん」
日本ではウエディングドレスはレンタルが主流だが、ヨーロッパには結婚式のドレスを借りるという概念がないので思い切って自分で一から作ろうと決めていた。
「それで、な。成人式の時に着た振袖あるだろ?あれドレスに使えないか?」
父親の言う振袖というのは、お母さんから引き継いだ振袖の事だ。
姉と妹たちもともに袖を通したそれをほどいて私のドレスに使って欲しい、という事だろうか。
「……気持ちは分かるけど、もったいなくない?」
「もったいなくないよ、他の三人にも話してあるしひーちゃんもきっとそのほうが浮かばれる」
父が穏やかに笑うとアイディアが一つ脳裏に浮かぶ。
「じゃあお父さんのユニフォームも一枚くれない?」
「ユニフォームを?」
「うん、みんなや私の思い出をドレスに縫い込みたい」
裏紙にボールペンでざっくりとしたイメージを書き込んでいく。
ふんわりとした純白のドレスのあちらこちらには家族の思い出の象徴を縫い込んでいく。
母親の遺してくれた振袖、父親の着ていたラグビーのユニフォーム、姉や妹の思い出の一枚、祖母から教わったこぎん刺しの模様。
それらをフランスの布とデザインでつなぎ合わせて一着のウエディングドレスにするのだ。
「いいな」
ちょっとユニフォーム持ってくるよと立ち上がる姿に在りし日の姿を思い出す。
家族の記憶を一着のドレスに閉じ込めて、私は花嫁になる。




インスタでウエディング写真を見てからずっと考えてたやつ。ちなみにこの振袖は秋恵ちゃんが成人式の時に着ていたやつです。