蒸し暑くてやる気の一切沸かない平日午後の昼下がり。
クーラーをつけてソファーから動かずにいたら「ただいまー」と帰ってくる声がした。
コンビニ袋をぶら下げた英人はランドセルを放り投げて無理くりソファーに座り込む。
「はい、おやつ」
「……頼んだっけ?」
「頼まれたから買ってきたんじゃん」
言われてみれば昼寝する前にLINEで頼んだ記憶があるが、寝ぼけて瑞穂さんではなく英人に送ってたらしい。
証拠と言わんばかりにスマホの画面を見せつけられれば確かに私が英人に頼んだのが分かる。
「そうだな、カバンの小銭入れに500円入ってるから持ってっていいぞ」
「はーい」
英人は仕事の荷物をいれてるカバンを容赦なくひっくり返して小銭入れを引っ張り出すと、何の躊躇もなく500円玉を自分のポケットにしまい込んだ。
(こいつ、人のもん触ることに躊躇ねえな)
血縁や戸籍上のつながりはないが、同居して長いせいか異性ではあれどお互い躊躇が皆無だ。
ビニール袋から出てきたのはカルピスのデカいボトルが一本、チーズケーキとショートケーキのセット、そして七夕ゼリーだった。
「なにこれ」
「給食の残り、好きじゃないからあげる。あんまり残すと怒られるし」
カレンダーを振り返ると今日は7月7日、七夕だ。
根っからの津軽人である父親から言わせてみれば七夕は8月なんだそうだが、福岡生まれ東京育ちの私からすればどうも新暦の七夕のほうが馴染みがあるのも事実だ。
「そもそも衛生的に大丈夫なのかこれ」
「さすがに開封してないしそんなに時間も経ってないから大丈夫でしょ」
そういや今日は給食食べたら即下校だと言ってたのでたぶん大丈夫だろう。
「チーズケーキ残しとけよ」
「残すよ。これ母さん用だし」
「私ゼリーだけかい!」
まあ瑞穂さんの名前を出されると文句が言えなくなるので、まあいいさと諦めることにする。
英人がカルピスのふたを開けてグラスに注ぐと、半透明の白と発酵乳の香りが妙に懐かしく思える。
「ほい」
「うん」
グラス一杯のカルピスを受け取ってひとくち含めば、柔らかな甘さと酸味が口の中に広がって心地いい。
「なんかすごい久しぶりにカルピス飲んだわ」
「わかる」
カルピスは何となく夏の味がする。
理由はよくわからないけれどイメージ的に夏!って感じがするのが不思議だ。
ついでに透き通った水色の七夕ゼリーを厚紙のスプーンで一口食べると、妙に人工的な甘さが強い。
「……これってこんな味だっけ?」
「食った事あるの?」
「うん、給食に出てた」
記憶の中の味だとパインっぽい味だった気がするのだが、地域差なのだろうか。
よく分からない人工甘味料の甘さのゼリーをカルピスで流し込む。するとどこかで笹の葉のさらさらと掠れる音が聞こえる気がした。




という訳で七夕ですね