「瑞穂さん、私がほかの誰かを好きになったらちゃんと私から振ったほうがい?」
「……は?」
恒例の夜更けのティータイムのなかで秋恵がスマホを見ながらそう聞いた。
「彼氏持ちの同期が他に好きな人出来たから今彼と別れるかどうかで悩んでるんだって」
証拠のように見せられたグループLINEはずいぶんとぐちゃぐちゃしている。
「ちょっと遡っていい?」
「いいよ」
ざっと会話を読み返す。
相談主の美嘉と言う子は警察学校時代の同期とずっと付き合っていたが、最近個人的な趣味を通じて仲良くなった男の子を好きになってしまい相手も自分に好意を寄せてる雰囲気になってるので、別れるかどうかで悩んでるという。
「ありがと、にしてもまーこじれてんね」
「うん、まあ彼氏は気づいてないっていうけど瑞穂さんみたいに気づいてて言わなかったってこともあるじゃん」
ずっと傍にいれば自分の他に好きな人がいるという事ぐらい何となく分かるものだ。
元夫の場合は本人は上手く嘘をついてるつもりでいたのがその時は愛おしく思えたし、まあ少しぐらいなら目をつぶってやろうと寛大にふるまっていた。
それが、自分が浮気する側からされる側になったとたんに態度を変えたのを見た瞬間にスッと冷めた。
「まあ、そうなんだけど……。お互いあと腐れなく向き合いたいなら、ちゃんと別れたほうがいいと思うけどね」
「だよね」
そうつぶやくとスマホに向き合って長文のメッセージを送る。
もしもまた私が浮気される側になった時、私は秋恵にひどいことを言わずにいられるだろうか?
自分以外のほかの人と恋をしてるのを見て大人しくいられるほど冷静でいられるか、そう自分に問うてみれば『絶対無理』という心の声が響いた。
「秋恵、あんた他に好きな人出来たらすぐに言いなさいよ」
「もちろん言うよ。瑞穂さんがそれで苦しんでたこと知ってるんだし、出来るだけ私が素直に言う事で瑞穂さんの傷を浅くするのが最後のやさしさだと思うからさ」
スマホを伏せてこちらを向いた秋恵は私の手に自分の掌を重ねて告げる。
傷つけあうにしても素直なほうが傷が早く治るはずだと信じているのは正義感の強い若者らしい純粋さがある。
実際はそう上手くいくかは分からないけれど、この件に関しては私が気づいてしまう前に別れを切り出されるほうがずっとまともに思える。


「ま、今のところ恋人枠はもう埋まってるからほかの誰かを好きになる予定ないけど」

薬指をなぞりながら薄く笑う。
「……それオチなの?」
「事実だよ」

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