「最近目の具合が良くない気がする……」
眉間を揉みほぐしながらそうつぶやく充希君の手には統計学の専門誌、横にはまだ読んでいないという雑誌や本の山。
「パソコンや本で目を酷使してるからじゃない?」
「ですかねえ、これでもサプリで目を労わってるつもりなんですけどね」
ついでにこめかみまで揉み始めたのを見て「その歳でそういう事言ってると10年後20年後が心配だよ」と思わずつぶやく。
60代目前の俺からすれば29歳なんてまだ若いのだが、当人からするともう衰えの二文字を感じ始めるのだろう。秋恵も『25過ぎてから夜勤明けのつらさが身に染みる』言い出したし。
「体は取り替えられないんだし大事にしな」
「分かってますけど、画面とにらめっこするのが仕事ですからね……あ、カバンの中にあるクリアケースください」
「はい」
言われた通りクリアケースを手渡すと、そこには複数種類の目薬やサプリが入っている。
「目薬多くない?」
「最近冬湖ちゃんに勧められて使い分けるようにしてるんです。ドライアイに効くとか充血に効くとか、いま種類豊富だから目的ごとに使い分けたほうがいいって。
でもこの間の健康診断で視力も落ちてるって言われたし目薬とサプリだけじゃ限界かな……」
「メガネか。案外似合うかもなあ」
「……豊さんもつければいいじゃないですか」
「俺も巻き込むなよ」
「この頃新聞読むときよく前後に動かしてるし、引退してからパソコン作業メインで目薬カバンに入れてるし、年齢的にも老眼の二文字が近いんじゃ?」
「なんでカバンの目薬のことを?」
「冬湖ちゃんが言ってました……一緒にメガネデビューしましょうよ」
肩をがっしり掴むと俺の目をのぞき込んでくる。顔が近い。
俺との関係が深まってだいぶたった今でも佐藤充希というこの愛情はまぶしく輝いていて、たまにこちらがしり込みする。
「いや一人でしてきな」
「僕が!豊さんのメガネを!選びたいんです!」
「ほんと昔からそういうところはぶれないな」
「人生のほとんどを豊さんへの愛で構成されてる人間にそれ言います?」
「ああうん、そうだね」

「……とうさんとみつきくんうるさい」

リビングの入り口から低い声がする。
それは昼寝から目覚めて貞子のようなぼさぼさ頭の末娘だった。なんかこういうホラー映画のポスターあった気がする。正直実の娘だがちょっと怖い。
「悪かった」
「あとめがねはちゃんとメガネ屋で視力測ってもらってから買いなね。おやすみ」
バタンとドアが閉まる。
「……今度の休日、買いに行くか」
「そうですね」

ふと思いついて書いてみたけど何だこのバカップルは