府中のパブリックビューイング会場はちょっとしたお祭り騒ぎになっていて、二人分の席を取るのも一苦労というありがたい状況だ。
「賑やかなのは良いけど場所取りが大変なのは考え物ですね……」
「初の日本開催効果なのかなあ」
開幕戦のチケット争奪戦に負けた充希君に誘われてパブリックビューイングというものに初めてきたけれど、これだけ大盛況だとは思わなかった。
ビールとコーラにロシア名物のピロシキをふたつ、それとソーセージを両手いっぱいに持ってプラスチックの安い椅子の上に並べる。
大画面には試合開始前の練習に勤しむ日本代表とロシア代表。
日本代表ユニフォームの観客たちは今か今かとキックオフを待ちわびるこの祭り騒ぎの空気は、どこか試合前にも似ていて悪くないなと思う。
そう言えば秋恵はワールドカップの会場警備に回されたと言っていたが大丈夫だろうか。
「日本代表、どこまで行きますかね?」
「最近の日本代表は調子いいからベストエイトは行ってほしいなあ、2位通過でいいから」
希望的観測を込めた言葉を漏らせば「僕もです」と彼が言う。
「まあ贅沢言うなら、うちのチームからも一人ぐらい招聘されてほしかったですけど」
「それはまだ厳しいかなあ」
ハハッと笑って彼の黒髪を撫ぜてやれば柔らかな毛質が気持ちいい。
「鈴鹿は二人も出てるのにうちはひとりもいないんですよ?!一人ぐらい出てもいいじゃないですか!」
「それは23年の日本代表に期待だな」
そう言う言っているうちに画面は国歌斉唱になっていて、遠くから誰かがロシア国家を歌う声が聞こえる。
俺が学生の頃には想像もつかなかったことだ。日本ラグビー界の悲願とも言える日が、本当にやってきた。


そして、キックオフの笛が高らかに響く。

少し今更感のあるワールドカップネタ。開幕戦の時は私有馬にいたから書けなかったんですよ(言い訳)
きっとこの二人はPVでもテレビでも現地でも日本代表戦全部見てるだろうなあと思った