「もうむり」
秋恵が力尽きたようにソファーに寝転がると私は何も言えなくなる。
気温35度以上が当然となりつつある真夏の東京で一日中立ち仕事などという苦行、私なら絶対に出来ないなあといつも思ってしまう。
「冷たいお蕎麦もうすぐできるからもう少し涼んでて」
「瑞穂さんありがとうね」
「いいのいいの、代わりに英人のこと竹浪家で預かって貰ってるし……」
学童保育のないお盆の間だけ、青森に帰省する秋恵のお父さんに英人を預かって貰うことにしたのでお盆明けまではこの家で二人きりになる。
「明日はお休みなんでしょ?」
「うん、3日だけだけど休みもぎ取った。瑞穂さんは夜仕事だっけ」
「そ。盆踊り大会の巡回ね。日付変わる前には帰ってこれるし明後日からお盆明けまで休みだから」
冷たいざるそばに付けつゆと市販のお惣菜を数品。
あと秋恵が帰りに買ってきてくれた缶チューハイと並べると、彼女はのろのろと食卓に腰を下ろした。
「こんな風に二人きりって今までそんなになかったよねえ」
「まあ、そうだね」
出逢った時は先生と生徒だったし、彼女が私の元に暮らし始めてからも英人がほぼずっと居た。
しかし英人ももう小5だしそろそろ独り立ちも近い。そうなればこんな風に二人で過ごす時間も増えるだろう。
「休みだし家でのんびりする?」
「うん、お酒飲みながら映画見てダラダラしよう。そういやアマプラってまだ使えるよね?」
「まだ使えるけど見たいのあるの?」
「冬湖にものすごい勢いでごり押しされた奴見とこうと思って」
ふいに食卓に箸をおいて英人にせがまれてはいったテレビの配信サイトをテレビで見られるようにガチャガチャと弄り始める。
というか今気づいたけど秋恵ったらそば3人前茹でたのにもう全部食べ切られてる。相変わらず食欲がすごいな、と苦笑いを漏らしつつそばの残りをすする。
「食べながら見るの?」
「今日ぐらいはいでしょ」
甘えるようなまなざしでそう言われてしまうと、何故かしょうがない気がしてしまうのが不思議だ。
「それに私はもう食べ終わってるしさ」
「はいはい」
テレビの前のソファーに移ってデザートとお酒を手に映画を見始めた彼女をのんびり眺めながら私はそばをすすることにしたのであった。



お盆の秋恵ちゃんと瑞穂さん。職業柄二人とも帰省しづらいので大変そうだよね