光学感染は見るだけで感染する新しいタイプの感染症です。

潜伏期間は5日から7日。症状は虹彩の無彩色化。

 

たしかに思い返してみれば、瞳の色が灰色に変わったという患者が先週からちらほら来ていました。

 

患者は主に幼児や小学生。診察室で話をきくと、もれなく親御さんの瞳の色もおかしい。両者とも検査をしても瞳の色以外は異常は見つからず、眼内コンタクトレンズ(いまは幼少期に装着、標準装備です)の経年劣化の可能性かとメーカーに問い合わせしていたところでした。SNSでは、カラコンを付けずにすむ!なんて冗談も飛び交っていたのですが。

 

光学感染。

 

つまり感染者の瞳はいわんやおや、動画を見ただけでも感染してしまう。ワクチンの開発は始まっているらしいと聞きます。

 

わたしたち医療関係者も、今週から医療用サングラスの装着し予防に努めていますが後の祭り。わたしの瞳もいつのまにかグレーです。太陽がまぶしいが、顔をふせる。だれかと話すときは、目を合わさない。おそらく死ぬまで、と思う。

 

「砂場」の舞台はポストコロナ、幾たびの新種の感染症のパンデミック後三十五種混合ワクチンがスタンダードの世界。主人公「竹本」は感染抑制省リサーチ課の職員。感染者の幼児を保護しながら公園で遊ばせていると、他の親子と居合わせてしまい、汚染が起こる。

 物語の最後のつぶやきに、”初期症状は選択決定が困難になる。ときに被害妄想を伴う、だ。”とあり、心が抉れます。

 

” 疾病を予防するにはどうすればいいのか。

 子供を賢くするにはどうすればいいのか。

 自分は清潔なのか汚染されているのか。そもそも自分とはどこまでだ。カバーの内外、皮膚の内外、細胞膜の内外……。

 情報という病は、しかも光学だけではなく聴覚からも感染する。”

 

 ウィルスの感染は、情報の感染でもあることをわたしたちはコロナ禍で学んだはずなのに。

 ウィルスを浴びながら、情報を浴びながら、わたしは顔をふせたまま、考えることをやめません。

 鏡にうつるグレーの瞳にもすっかり慣れたところです。

 

参考文献)

菅浩江「砂場」(『ポストコロナのSF』日本SF作家クラブ編(早川書房))