全て見終わるまでに何度も深いため息をつきました。
これで最後。これがどん底。
いくらなんでも、これ以上悪いほうに行くわけがない。
そんな期待は、悲しいくらい次から次へと裏切られていきます。
地べたに這いつくばって、差し伸べられる救いの手にしがみついて少し浮かんでちょっと息を吸ったら、また地べたに叩きつけられる。自ら求めるように叩きつけられに行ってしまう。
これは「波」だと思いました。
主人公の郁男という男は、一体今までどれだけの波に翻弄されてきたのか。
最初のうちは抗ったのかもしれない。
自分の力で波を乗りこなそうとしたのかもしれない。
その努力が出来ない人間だとは、私は思わない。
しかし、映画の中の郁男は、抗うことにも疲れ果てて、荒れる波に大きな体を委ね、暗い海の底へ沈もう沈もうとしているように見えます。
私は知っている気がします。
暗い海の底は、案外安らかな場所だということを。
この映画には誰一人として立派な人間は出てきません。
郁男に手を差し伸べる人たちだって、みんなどこかどうしようもないところを持った人間です。
そして映画を見ている私だって、どうしようもない人間なのです。
この映画を観終わった後、圧倒的なものに翻弄されきった虚脱感と同時に、何ともいえない深い安らぎに包まれました。
最後、郁男に光が差したのかも分かりません。
真の意味で何が彼の救いになるのかも分かりません。
でも彼らが、あのとき安らげる場所にいたことだけは分かります。それがほんのひとときでも。幻かもしれなくても。
「波」が奪ったもの。奪えなかったもの。そして齎したもの。
それを確かめるために、もう一度見に行きたいと思います。