3月11日 午後2時46分ーーー

1年ぶりの黙祷……

慌ただしい日常に追われ、被災した方々へ、想いを馳せる機会は減り…
テレビなどで情報を目にすることも少ない生活を送っている私ですが……

ここ数日のメディアが伝える被災地の現状には、自然と引き寄せられ…胸に痛みを覚えました。。

苦労を重ね…復興の明るい兆しが増している部分もあると思います。
けれど…
明日生きることにも苦しい現実に、日々苛まれている被災者の方が、置き去りにされている印象が否めないのです。

これ以上住み続けるのは難しい仮設住宅…
失われたままの仕事…
補償の境界線…

もしも、首都圏を襲う大地震が起きたら…それは、そのまま自身が陥る苦難であり、解決の糸口さえ見えない3年の月日は、あまりにも長く…いたたまれなくなります。。

ささやかな幸せで、満たされながら生きていけるのが人なのだと…私は、そう思っています。
大切な人と共に、穏やかな暮らしを送れる日々があれば…敢えて争いや諍いを望まないと。。

だから…
物の豊かな所から、不足している所へ…
贅沢を手にしている所から、生きるために必要としている所へ…
水が流れるように、平らかに…

農産物の放射能汚染で、首都圏では軒並み野菜や畜産物の値段が上がり、今でもその影響は残っています。
被災地の復興は、私達の生活にも深い関わりがあり…
何より、大きな災害という極まりない理不尽に幸せを奪われた苦しみに、眼を、耳を塞いでしまったら…自分の今の幸せも、信じられなくなってしまうのではないでしょうか。。

傷痕が完全に癒える術などなく…
全て人が納得する答えを見出せるはずもない…
それでも…
被災地の人々の…子どもたちの未来に、温かい光か射しますように…
希望をもって、歩んで行けますように…

願いと、誓いをこめて。。




☆タムナ~always love you~☆

∮∮ 第2章 夢に咲く花 ∮∮

∂* 第2話 愛しさの行方3 ∂*

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トクトク……
温かく脈打つ肌を唇でなぞると、甘い香りがほわっと漂う…

いつも変わらぬ明るく澄んだ瞳で…
会ったばかりの男にも、自身に向けるようにふわりと柔らかな笑みを浮かべ…
無垢な心のままに動き回っている…
そう映っていたボジンの胸の内に……

手を伸ばせば触れられるのに…
その僅かな間を埋める術が分からないもどかしさを、同じように宿していたことが…
張り詰めていた心に、温かい明かりを灯す…

「キアンダリ…?」
襟元から流れ込む吐息に、身を固くしたボジンが、戸惑いがちに呼ぶと…
きつく巻きついた腕を少しだけ緩め、
「悪くない…」
低い声が囁いた…

へ…?不思議そうに瞬く大きな眼を、
「なかなか見えぬお前の心を、今宵は捉えた」
熱っぽい眼差しが、間近から覗き込んだ…

「そのように想っていたとは…」
そっとこめかみの辺りに触れた長い指が…
「嬉しいものだな…」
青白い月の光に透けてしまいそうな、綺麗な笑みと共に…
頬を滑り…
唇を辿り…
思わず息を支えた喉元を降って…
「満天の星明りのお蔭かもしれぬな…」
半衿の袷にかかる……

あっ……びくんと跳ねた鼓動を、指先に感じたパク・キュが、
「もう少し…近づいてみるか…?」
谷間の奥に潜む紅い印を、すっと撫でた…

「あの……」
かぁぁっと顔を染めて、艶やかな唇が焦って言葉を探す…
「ど…う…したら……もっと…近づける…?」

滑らかな肌と…印を撫でるたびに微かに触れる柔らかな感触に、思わず指先が震え…
「お前は…どう想う…」
問う声が、僅かに掠れた……

「私は……」
恥ずかしそうに俯いた視線が、袷の内側に入り込んだ指を見つめているようで…
じわりと嫌な汗が、背に滲む…

動きを止めた指を、そうっと握ったとき…
「もう少し一緒に…星をみたい…」
か細い呟きと同時に、華奢な身体がやんわりと広い胸に重みを預けた…

長い腕で受け止めながら、
「星…か……」
思わずボソッと洩らすと…
「だって…私も…知りたいもん…」

(キアンダリの心の中…)

消え入った続きをはぐらかすように…空を仰いだ…

「星達の中に…浮かんでるみたい…」
夢見るように呟くボジンは、暗い夜空に淡く光る三日月のように儚く…美しく…
「お前の居場所は、ここであろう?」
しなやかにしゅるりと絡ませた腕の中に、閉じ込める…

「キアン…ダリ…」
恥ずかしそうに少し俯いたすんなりした頬を、
「星空にも……」
大きな手が覆い…
「他の者の…」
ぐっと引き寄せられたトポの胸元で…
「腕の中にも…行くな…」
大好きな匂いにふわりと包まれた…

一日中、ずっと求めていた優しいパク・キュの温もりに甘えたくて…
「こんなことするの…キアンダリだけだろ…」
逞しい腕をぎゅっと握って、頬を擦り寄せた…

(だと…いいがな…)

「星はさ…明るくても暗くても…赤でも青でも…同じように空に並んでる…」
大きな眼が、きょろりと空を見渡す。
「あのたっくさんの星の中に、私の星があるって…おじいが言ってた……みんな、それぞれ自分の星があるんだって…」

「ふむ…明国のその昔から伝わる漢書には、天球に並ぶ星々を二十八の宿に分けた宿曜道という学問があってな…人は皆、自身の星の宿が定められているそうだ」
へぇ……こくこく頷きながら、
「キアンダリの星は、どれだろう?」
まんまるな瞳を輝かせた。

「きっと、一番綺麗に光ってる星だね…」
愉し気に言うボジンに、
「一番、綺麗…か?」
驚いたように低い声が洩れる…

ハッとして顔を伏せ…
「だって…キアンダリは偉い両班様だし…」
小さく呟くと、
「私より身分の高い両班もいるぞ?」
切れ長の眼が、すっと覗き込む。

「すごく頭もいいし…それに…」
細い指先でもじもじ弄る口許から、
「誰よりも…強いだろ…」
微かに響いた…

「そうか…」
巻きついた腕が、華奢な身体をしゅうっと締めつけ…
「そう…あらねばな…」
きっちりと結い上げたこめかみのあたりに、唇を寄せた…

(でなければ…お前を守れぬ…)

「あれだ…三つ並んだ端の白く光る星が分かるか?」
水平線を真っすぐに指差した先へ、じっと眼を凝らすボジンに、
うん!ふわりと笑みが溢れる。

「キアンダリの星なの?」
弾む声に、
「私の名は、あの星に因んでつけられたそうだ」
パク・キュは、静かに答えた。

「やっぱり…綺麗だね…」
にっこり微笑むボジンの耳元で…
「奎宿といって、古来から『貴人の星』と呼ばれているそうだが…」
ふぅ……一つ息を吐いて、
「秋から冬にかけて天空に昇り、春の訪れと共に消えていく…淋しい星だ」
薄い笑みを浮かべた。

「いつだったか…父から名の由来を聞いて、我が星が天頂に立つところを観たいと秋になるとすぐに星見を始めたが…最初の頃は、待てどもなかなか昇らず眠さに負け…秋の深まる頃、夕飯の後庭に出て、やっと空高く光るのを観られたときには、寒さに震えが止まらなかった…」
遠くを見つめるパク・キュを…
「ふふふ…キアンダリの星らしいね~」
柔らかな眼差しが映した…

ん?不思議そうに首を傾げるのに、
「寒い夜に空に昇って、みんなをじい
っと見守ってるなんて…」
キラキラした笑顔が返す。

「お前は……」
大きな掌が…
「そのように想うのだな…」
艶々した髪を愛おしむように撫でると…
「キアンダリは…だれもが逃げ出したくなるようなことに、たった一人で立ち向かう人だから…」
はにかんだ瞳が揺れた…

「やはり、お前と観る星はよいな…」
不意に近づいた熱い吐息が…
「これからは…星を観るたびに、今宵のことを想い出せる…」
涼やかな響きが耳を掠めると同時に…ふっくらした唇を覆った…

んっ……驚いて見開いた眼を、
「次は、お前の星を探してやる…だから…星見は私と共にしろ…」
間近で覗くパク・キュに…
「う…んっ…」
返事を飲み込まれ…ゆっくりと目蓋を閉じる…

(小さくても…)

幾度も合わさりながら、深まっていく口づけに…

(暗くてもいいから…)

トポを掴む指から、ふうっと力が抜け…

(キアンダリの一番近くで瞬く星になりたい…)

触れあう舌先が、絡まり…融け合っていく…

時を忘れたように、互いの熱く柔らかな感触を重ねる二人に…薄く白んだ光が射した…

名残り惜しそうに解かれていく舌に…すっぽりと覆われた袖の中で、潤んだ瞳が、ぼんやりパク・キュを映す…

「こんな口づけを交わしてしまうと…お前を…放せなくなるな…」
朱く染まった唇を長い指で辿ると…
「放さない…で…」
細い腕が…きゅっと首にしがみついた…
「キアンダリの傍にいたい…」

耳許に届いた瞬間ーーー

思い切り小さな身体を抱きすくめ…
「明日の夜も…か?」
押し込めた息を…そっと洩らした…

え…?肩の辺りで…
「漢陽まで、二人で行くんだよね…?」
ボジンが小さく首を傾げた。
ああ…思わず掠れた声に、
「ずっと…一緒に…行けるんだよね?」
不安気に訊く背中を…
「そうだな…」
あやすように撫で…静かに息を吐いた…

(とりあえず…旅の始まりだ…)

ひゃっ…焦るボジンをそのまま抱き上げ…
「もうすぐ、船が着く…」
朝靄に浮かび始めた水平線を背に、ゆったりと歩き出した…


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☆タムナ~always love you~☆

∮∮ 第2章 夢に咲く花 ∮∮

∂* 第2話 愛しさの行方2 ∂*

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「確かに…星見にはよい晩だな…」
ボジンを包んでいた腕が、ふっと緩んだ。

カッのつばを押し上げて仰いだ空に、
「少し休んで行くか…」
低く呟き…ソ・ジョンスが座っていた船首の突端に張られた板の上に、パク・キュはゆったりと腰を降ろした。

「お前も座らぬか?」
綺麗な笑みに誘われ、
え…?思わず戸惑う唇を摘まむ…

「どうした…星見をしに来たのだろう?」
見上げる切れ長の眼が、
「星宿について語るくらいなら、私もできるが…役不足か?」
探るようにしゅっと細まるのに…
「そ、そんなこと…」
慌ててぷるぷると首を振る。

「では、来い」
眼の前にすっと差し出された手に、躊躇いがちに指先を乗せながら…
「でも…二人で座るには狭いから…」
言いかけた言葉に、
「二人で…座ろうとしていたであろう…?」
被さる声が、冷ややかに響いた…

「だから、どうしよぅ…っ……」
ボジンの言葉を遮るように、細い指をぎゅっと掴み、引き寄せる…
きゃっ…短い悲鳴と共に倒れんで来る身体を、長い腕がひょいと膝に抱き上げた。

「迷って…どこに座るつもりだった…」
じっと見つめられ…
「どこ…って…」
驚いて見開いた眼が、ぱっちんと瞬く…

「このように…か…?」
瞳の奥を覗き込む眼差しに、トクトクと鼓動が駆け出す…

「何….言って……」
息の詰まる喉から、か細く洩れた声音に、
「あの男に手を引かれていたら…」
鋭く重なる…

「こんなこと…ジョンっ…」
艶やかな唇が口にする名を…
「お前は…」
ぎゅうっと抱きしめる腕が掻き消した…

「こうして傍にいるのが私でなくても…よいのか…?」
囁くように洩れる吐息に…
「キアンダリこそ…」
トポの胸元を細い指がきゅっと掴んだ。

「無理…してるんじゃないか…?」
問う声が不安気に震える…
「何を…だ?」
少し緩めた腕の中を覗くと…
コツン……隠れるように、なだらかな額が胸に当たった。

「私を…連れてきたことさ……」
ぽつんと呟いたボジンが…
「何故、そのような…」
焦って訊き返す声音には答えず、
「キアンダリ」
強い眼差しをパク・キュへと向けた。

「あの時……母さん達が漢陽に来れるように…ホン領議政様に頼んでくれたの?」
真っすぐな瞳に、くっと息を飲む…

(ソ万戸か…?)

済州島の警護に当たる水軍の万戸でれば、ホンからの特令で海女が島を出たことを知っていてもおかしくはない。

黙り込んだままのパク・キュの胸を、
「なんでそんなことしたのさ!怒るに決まってるのに…」
トンと叩いた小さな拳を、大きな手が包んだ…
「お前が気にすることではない…」

でもっ…!大きく見開いた眼が、ゆらりと潤み…
「今度のことも…お父さんに、無理して頼んだの?」
絞り出すように言った…

「それは違う…お前は、私を二度も死の淵から救ったのだ。漢陽へ招くことに、父上も異論はない」
静かに紡いだ言葉に、
「そんなの、もういいんだよ!」
甲高い叫びが響いた……

「キアンダリは、牧使様になってタムナを守ってくれてる。それだけで十分さ…」
瞬いた瞳から月明かりを映して流れ落ちる雫を…
「十分…なのか?触れられなくても…」
温かな掌が、ふわりと覆った…

「一番近くに私がいなくても…」
ぷるんとした唇を、
「お前は…平気か……」
頬に当てた親指がつうっと辿る…

もう片方の指が、顎の下の紐をしゅっと解き…滑り落ちたカッを、船縁に立て掛けた…

「私は、嫌だ…」
そっと額を合わせると…鼻先が触れ…
「ボジン……」
ハッと息を飲んだ口許に、吐息がかかる…

「お前が教えてくれたのだ…触れあうことの愛おしさも…共にいる歓びも……」
心地よい声音が、夢のように響く…
「他の者と見る夜空も…お前には、同じように見えるか…?」
ううん……ぽうっとする頭を振った…

「タムナに来て、初めて気づいた……お前と見る星が、一番美しい…」
優しく微笑むパク・キュは、あまりに綺麗で…
「私も…だよ…」
ぼんやりと呟いた唇に…熱い息が流れ込んだ…

重なる唇が、少しずつ傾き…深く合わさると…
パク・キュの舌先が、ふんわりと開いた隙間を辿り…柔らかな感触を求めて滑り込み…
触れると、怯えたようにぴくんと震えた小さな舌を…幾度も撫で上げる…

そしてーーー
すうっと力の抜けていくボジンから漂い始めた甘い香りが…身体の芯に、火をつけ…

(まず…い……)

頭の隅で鳴る警鐘が…靄に消えていく…

もっと…ボジンを感じたい…
灼けつくような想いに衝かれて…
胸元に当たるふんわりした膨らみを、背からきつく抱き上げ…奥まで絡めた舌を、きゅうっと吸い寄せた…

ぴったり押し当てられたボジンの胸が、大きく弾み…トポの襟元を、細い指が必死に掴む…
「んっ…ん……」
苦しそうに洩れた声に、パク・キュの腕がふっと緩み……ゆっくりと…唇が離れた…

「急に…どうしたのさ…」
しっとりと濡れた睫毛を、戸惑いがちに伏せるボジンを、もう一度愛おしむように抱き寄せる…
「お前に…もっと近づきたかった…」

「嫌…だったか…」
掠れた声に問われ…
「ううん…ちょっと驚いた…けど…」
ほっそりした腕が、そうっとパク・キュに廻った…
「嬉しかった…私も、今日ずっと…キアンダリに近づきたかったから…」

「そう…なのか…?」
思いがけないボジンの言葉が、やんわりと胸に響く…

「だって、キアンダリ…難しそうな顔してさ…あんまり話さないし…」
ぽつぽつと話しながら、
「眼の前にいるのに…何だか遠くにいるみたいで…」
しがみつくように広い胸を抱きしめるボジンが、切ないほど愛おしくて…
白く光る首筋に、引き寄せられるように顔を埋めた……


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