近年海洋ゴミ問題が世界中で大きく取り上げられています。
この調査研究を行っている東京海洋大学と環境教育活動を行っている日本セーリング連盟によってこの教材が作成されました。
それでは海洋ゴミ問題について一緒に学んでいきましょう。
そもそも海洋ごみとは何でしょうか。
海洋ゴミとは海洋中に存在するごみのことを指します。
海洋ゴミは大きく分けて三つあり、一つ目は海岸に漂着する漂着ごみ、二つ目が海中や海表面を漂う漂流ごみ、そして三つ目が海底に沈積する海底ゴミになっております。
こうした海洋ゴミは私たちの生活や生き物に被害をもたらしています。
この被害は大きく分けて三つあり、一つ目が誤飲や誤食です。
これは生物が本来の餌と間違えてゴミを食べてしまう事を指します。
現在報告されている誤食する生物の例としてはウミガメや海鳥が挙げられます。
ウミガメはレジ袋をクラゲと間違えて食べてしまっているのではないかと言われています。
また海鳥の90%がプラスチックを誤食してしまっていることも明らかとなっています。
二つ目は生物への絡まり被害です。
海洋中に放置された漁具やごみに生き物が絡まり窒息死などを引き起こしています。
この被害で特に問題とされているのがゴーストフィッシングです。
ゴースフィッシングとは海洋中に放置された漁獲機能を失っていない漁具に魚がかかり続けてしまうことです。
所有者のいない漁具は回収されることがなく、漁具にかかった魚は身動きが取れずに死んでしまいます。
三つ目は生物育成の阻害です。
これはゴミが生き物を覆い、覆われた場所の生き物の育成が阻害されてしまうことになります。
特にこれは海藻や海底生物などへの被害が心配されています。
また海洋ごみによる被害の一つとして経済的被害も深刻な問題となっています。
この被害も大きく分けて三つあり、一つ目が観光への影響です。
ビーチへゴミが漂着すると景観が損なわれるため観光業に被害がもたらされます。
また二つ目は漁業への影響です。
海洋ごみが漁網内に混入すると同じ網内の魚の体が傷つき商品価値が下がってしまいます。
また船上でも海洋ごみと漁獲物を選別するという労力が増え体力や人件費の面でも漁業者へ負担がかかってしまいます。
三つ目は海洋ごみの回収や処理にかかる莫大な費用です。
海洋ゴミに関してはその処理費用は自治体の負担になります。
特に漂着ごみが多く流れ着き、資金力の弱い地方自治体では処理費用は大きな負担となっています。
また海洋ごみの被害は目に見えるものだけではありません。
海洋中に流れ出たプラスチックは紫外線や波力によってさらに細かく砕けていきます。
こうして五ミリ以下のプラスチックになったものをマイクロプラスチックと呼んでいます。
このマイクロプラスチックには破砕して五ミリ以下になったものだけでなく、メラミンフォームスポンジや衣服の繊維の切れ端、スクラブと呼ばれるマイクロビーズやレジンペレットなど、もともと五ミリ以下のプラスチックも含まれています。
このスクラブと呼ばれる洗顔料や歯磨き粉に入っているマイクロビーズに関しては現在多くの国で使用が禁止されています。
ではこのマイクロプラスチックはいったい私たちにどういった関係があるのでしょうか。
実はマイクロプラスチックは海を経由して私たちの食生活に紛れ込んでくると言われています。
これまでの研究結果から私たちの身近なものにもマイクロプラスチックが混入していることが明らかとなっています。
私たちが煮干しとして普段使っているカタグチイワシですが、東京湾のカタクチイワシ64個体中49個体からマイクロプラスチックが検出されています。
また食塩に関しては天然塩の90%以上の世界中のブランドにプラスチックが含まれていることが明らかとなっています。
またペットボトル飲料の90%以上にはマイクロプラスチックの粒子が混入していることも明らかとなっており、ウィーンで行われた学会では人の排泄物からマイクロプラスチックが発見されています。
しかしプラスチック自体は人が飲み込んでも排泄されてしまうためプラスチックそのものに害があるわけではありません。
では一体何が問題なのでしょうか。
実は問題なのはプラスチックそのものではなく付着物質です。
石油からできているプラスチックは油に溶けやすいPCBなどの有害物質を表面に吸着させる働きを持っています。
プラスチックはこういったPOPs、日本語で言うと残留性有機汚染物質と呼ばれる有害物質を海洋中で吸着することが明らかとなっています。
このPOPsには、難分解性、高蓄積性、長距離移動性、人の健康や生態系に有害性があるといった特徴があります。
その例としてはPCBやDTDなどが挙げられます。
POPsが付着したプラスチックが海流に乗って、ほかの海域に移動し有害性物質を広めてしまうことも近年問題となっています。
こうした有害物質の付着したプラスチックを生物が食べると、有害物質が体内に取り込まれ脂肪や肝臓に溜まっていくと言われています。
既にこれまでの研究で海鳥や鯨、鮫などの脂質からPOPsが検出されています。
現在その影響は明らかになっていませんが摂餌能力、成長、生殖機能に影響が出るのではないかと言われています。
ではマイクロプラスチックは一体どこまで広がっているのでしょうか。
実はこれまでの研究で私たちの住む日本周辺のマイクロプラスチック量は、世界の海の平均的な量の約27倍だということが明らかとなっています。
また人間の生活圏から最も離れ、一見プラスチックとは無縁そうな南極海域でもマイクロプラスチックが確認されています。
南極とは正反対の方向にある北極の氷山からもマイクロプラスチックが発見されています。
すでにプラスチックの存在しない海はないということが言われています。
実際に日本セーリング連盟では2019年の9月に開催された小笠原ヨットレースでヨットでのマイクロプラスチック採集を行ないました。
一見綺麗に見える海でも表層をネットで引いてみるとこのようなマイクロプラスチックが採取されました。
小笠原諸島の綺麗な海に面した海岸でも、よく見てみると彩どりのプラスチックが落ちています。
皆さんの身近な海でもよく見てみるとマイクロプラスチックを発見することができるかもしれません。
ではこういった問題に対して私たちは何ができるのでしょうか。
SNSでは海洋ゴミに関して、ポイ捨てをしていない自分には関係がない、日本はリサイクル率が高いためごみの流出量は少ないはずだといった意見が見られました。
では果たして本当にそうなのでしょうか。
実は使い捨てプラスチックの一人当たりの消費量は日本が世界第二位と言われています。
また海洋ごみの発生源はその80%が陸上由来だとされています。
その発生源はもちろんポイ捨てなどの故意な投棄もありますが、農業や事故による不本意な流出も挙げられます。
その、また不適切な管理もその一員です。
私たちの出したゴミや埋め立て地に行きますが、風雨などによって埋め立て地からゴミが流出することもあれば、豪雨などで処理しきれなかった下水がゴミを含んだまま海洋中に流れてしまうこともあります。
たとえ私たちがゴミをきちんと出していてもカラスによって漁られて袋が破れてしまったら漏れたゴミがそのまま河川に流れ、海洋中に出てしまう可能性もあります。
決してポイ捨てだけが全ての原因というわけではありません。
また世界中で最もゴミが集まる海域だと言われている北太平洋のゴミ集積地帯では、そのごみの約34%が日本製のゴミであったことが報告されています。
決して日本のごみの流出量が少ないわけではありません。
次は日本のリサイクル率について見てみましょう。
実は日本のリサイクル率の平均は25%となっており、世界のリサイクル率の平均が9%なのに比べ高い水準となっています。
しかしその実態を見てみると、リサイクルとしているものの約70%を海外へ輸出しています。
これはプラスチックを一から作るよりも輸入した方がコストがかからない為、中国や多くのの発展途上国がゴミを受け入れてきた結果です。
しかし現在中国や多くの発展途上国もごみ問題に悩まされ、その受け入れを拒否し始めています。
土地の少ない日本では埋立地にも限界があるためゴミを減らしていくことは急いで取り組むべき問題となっています。
では海洋中に1度流出したゴミを回収することは可能なのでしょうか。
現在ごみの回収には多くのNPO法人やボランティアが力を入れています。
しかし、これまで世界でボランティアが行った海岸清掃で回収されたゴミは一年間のゴミ流入量の約0.1%程度しかないと言われています。
また海底ごみの回収方法としては、こちらの写真のような底曳網が挙げられますが、これには莫大なコストがかかります。
また、漂流ごみに関しては海表面のゴミを回収する装置が使われていますが、海表面を漂流しているゴミは海洋ごみの全体の1%であるため、その回収量は微々たるものです。
つまり、海洋のゴミ問題を解決し次世代へ綺麗な海を残すためには海洋に出てしまったゴミをいくら回収しても意味がありません。
海洋ゴミの世界ではよく蛇口を閉めなければ意味がないという言葉が使われます。
これは海洋中に出てから対策するのではなく、原因となるプラスチックに対して対策を行わなければ意味がないということを指しています。
プラスチック使用量が多いままでは海洋でいくら回収しても海洋ゴミは増え続ける一方です。
このため海洋ごみ問題の解決には、そもそものプラスチックの使用量を減らしていくことが求められています。
こうしたことから世界中で様々な対策が行なわれています。
とくに海洋ごみを減らすためには使い捨てプラスチックを減らすことが重要だと言われています。
その最たるものがレジ袋です。
レジ袋の世界消費量は年間に1から5兆枚とされています。
これは1分間に 200万枚から1000万枚消費されている量に相当します。
日本でも世界に遅れを取る形で2020年からレジ袋の有料化が始められました。
またペットボトルも問題視されています。
ペットボトルは世界中で一年間に約4800億本が消費されています。
実は飲料関係のゴミを減らすだけで海洋ごみの約1/3を減らせると言われています。
このため現在ペットボトルからマイボトルへの転換が世界中で推奨されています。
企業も現在さまざまな取り組みを行っています。
ペットボトル飲料を買わなくても済むように会社への給水ステーションの設置や、マイボトル用の自動販売機の開発、商品の梱包材や容器のデポジット制の導入など、ゴミを出さない取り組みが世界中で行なわれています。
もちろん利便性の高いプラスチック自体が悪いわけではありません。
現在、海洋中であっても分解される生分解性プラスチックや、再生可能な植物から作られるバイオマスプラスチックなどの研究がなされ次世代プラスチックとして大きく注目されています。
私たちも意識を変えてできるところから取り組むことが求められています。
ゴミの量を減らしていく使用削減のリデュース。
これはマイバッグやマイボトルを使いプラスチックの使用量そのものを減らすことです。
また1度使ったものを譲るなどして長く使っていくリユース。
これは修理なども挙げられますが、最近ではフリマアプリの普及によってリユースがしやすい環境にもなっています。
使い終わったものをもう1度資源として使うリサイクル。
これは日頃から分別する意識を持つことが大事です。
また、ポイ捨てをせずにゴミをきちんと管理することも海洋ごみの削減につながっていきます。
海洋ごみについて誰かに話してみることもとても大切です。
今起きている問題を知ることが意識を変える一歩となります。
また、清掃活動に参加してみることも大事です。
街中だけでなく、河川や海岸でのゴミ清掃を行うことは、海洋ごみやマイクロプラスチックの発生を防ぎます。
まずは自分のできるところから海洋ごみ問題に対して対策を行ってみましょう。