夏の間に

保育園を退職した小百合さんが離れに引っ越してきて、

9月から社内の保育室で働くことになった

 

保育室は、社医や看護師さんもいる保健センターに

併設されていて、病児保育室もあるから

子どもに少々熱があったりしても、安心して預けられて、

英才教育のカリキュラムも受けられるという

社員さんたちに大好評の福利厚生施設なんだけど、

最近は子どもたちが増えてる上に、

保育士さんにも育休中の方や、産休に入る予定の方がいて、

人事の早期募集案件にも上がっていたらしく、

修斗が人事と保育室に、小百合さんの話を持っていったときには、

「すぐにでも」と、入社試験と面接をして、即採用になった

 

みーたんとも一緒にいられるし、いい感じにいられるといいな

 

「おかげさまで、小百合は顔つきが優しくなりました」

と、聡が言うから、よかったんじゃないかな

しばらく働いてみないと実際のところはわからないけど

 

小百合さんが引っ越してきた離れは、東の館とは違って、

離れとはいえ、母屋と地下通路でつながっているから、

雨風も心配なく、夜でも渡りあえる

 

私と小百合さんとみーたんはよく行き来して、

お菓子を分けに行ったり、おしゃべりしたりしていた

 

みーたんは、明るくてよく笑うのね…

保育室でお友達とも遊んだりで、楽しそうにしてる

 

それに…

内定以来、何かと会社に呼ばれることが多くなってた拓斗君を

紹介してから…

なんか二人…いい感じなんだよね…

 

拓斗君と…

  みーたん

 

拓斗君て…

直斗君やまりなちゃんといたときもそうだったけど、

ホントに無邪気に遊ぶのよね…

 

子ども好きっていうより…同化しちゃうというか…

 

保健センターに健診に行ったときに、

みーたんに声をかけたら、保育室に引っ張り込まれて、

他の子たちにもなつかれてるみたいで

よく保育室を覗いてるみたい

 

「拓斗…保育士さんたちの邪魔になるんじゃないか」

修斗が心配する

 

「んん…

 俺も最初はそう思ってたんだけどね

 逆に「ちょっと見ててくれ」とか言われちゃうんだよね

 誰か一人に世話が必要になったりして、

 ちょっとだけ離れたいときとか、助かるらしい」

 

「拓斗君も、保育室に配属しちゃうとか?」 

拓斗君は、トップ入社の幹部候補生…

経営の現場で活躍してもらわないと困るから、冗談だけど…

 

「まじ…?

 子どもたちといられるのは嬉しいけどね」

 

「拓斗には無理でございます

 教育が必要な側でございますから」

 

「あ…そりゃそうだ…無理っぽい

 でも、俺、子どもたちにはモテるんすよ~」

 

いやいや…女の子にもモテるはずよ…

修斗とはまた全然違うけど、目がキリッとでかくて、

背は高くないけど、なんかかっこいい

人懐っこくて、明るいし…

それに…皆に優しい

 

彼女がいたときもあったらしいんだけど

海外留学に行くことになって、別れちゃったんだとか…

 

前にその話を聞いたとき、

『解放しあったんす』

と言ってた

お互い、嫌いになったわけじゃないけど

年に一度会えるかどうか…って関係のままで縛り続けるより、

相手を自由にしようって、じっくり話し合って決めたんだとか…

 

「解放かぁ…

 なかなか…そんなに割り切れるものかなぁ…」

 

「空港へ見送りに行って、大号泣で抱き合ったらしいですよ」

と…

後で修斗に聞いた

 

未来に向かっての旅立ち…ってことかぁ…

いい関係だったからこそなのかな…

 

「拓斗君て、ホントにいいなぁ」

 

「ありがとうございます

 拓斗をお褒めいただくのは嬉しいのですが…」

 

ん?

あ…ふふふ…

修斗ってば、弟にまでヤキモチやくの…ね…

 

修斗は声に出さなかったけど

「拓斗も男ですから…」って、顔をした…

 

「わかったよ…」って、顔で返した…

 

これからは心の中で留めることにしようって決めて

その話はそこで終わらせた

  

夏の間…

真穂様は海外のオーケストラに呼ばれたりしていたみたいだけど

 

時々、病院でも一緒に弾いてみたりしているうちに、

真穂様もアニメの曲を覚えてきて下さるなんてこともあったりして…

二人でできるレパートリーも増えてきた

 

ただ…、真穂様は知る人ぞ知る…名の知れたバイオリニスト…

院外の方は入れない病棟とはいえ、お見舞いに…という口実で、

真穂様目当てのギャラリーもいらっしゃるみたい

 

すっかり、真穂様のペースにのまれてる気もするけど

杉本のおば様の嬉しそうなお顔を見ていると、

「今できることを、今しないでは、

 今生でできないかもしれないってことよ…」

あのときの真穂様の言葉が頭の中にこだまする

 

真穂様がおばあさまである杉本のおば様と過ごす時間は、

今しか作れないかもしれないんだ…

孫でいられる…残された時間…

  

当たり前のようにくるはずの明日、そしてその続き…

それを作るのも、過去を作ってきたのも

全部、そのときの「今を生きた」から、なんだよね

『今』しか生きられないんだね

 

私にとって、真穂様と過ごす時間は大きなウエイトを占めるように

なってきていた