2016.3.16 Weds.


«黒木»






明日は3学期の修了式、中等部の卒業式だ。
今日は卒業式の予行演習があった。
中高一貫校の中等部の卒業式なんて本当に形だけだ。各クラスの代表者が卒業証書を壇上でクラスメイトの分まで受け取って、教室に戻ってから各人に渡される。

明日はクラスのホームルーム後、会場を学内の小ホールに移し、保護者も交えて謝恩会がある。軽食と3年間の思い出として、キャンプや体育祭などのDVDを見たり、有志がちょっとした出し物を行ったりする予定だ。

みんなが帰った後、担任の先生方、学年委員と卒業委員などが小ホールに集まり、明日の謝恩会の最終確認をした。
 
「謝恩会は生徒主催だけど…手伝うことはもうないかな?」
「はい、先生方も楽しみにしてくださいね。
 あ、明日の朝イチ、卒業式の前に音響の確認だけお願いします。」
「了解。えっと後は…最後は学年代表の挨拶で終わりだな。
 二宮くん、大丈夫だよね?」
「はい、準備してます。」
「じゃあ、解散。」
「ありがとうございました。」
「気をつけて帰れよ。」
「「「はい、さようなら。」」」



今日は当然部活は無し、二宮くん、鈴木くん、私の3人で帰る。
そう、3人で帰るのは…これが最後?


「いよいよ明日ね。」
「そうだな。
 いろいろあったけど、あっという間みたいな気もするな。」
「本当にふたりには迷惑かけたよね。
 最後の最後までありがとう。」
「引越、もう決まってるんだよな?」
「うん、明後日に。連休明けには向こうで編入テストがあるんだ。」
「明後日?そんなすぐに…忙しかったね。」
「お父さん、ほとんど向こうでね。
 楽々パックっていうのにしちゃった。」
「今の家、そのまま?」
「うん、大きな本棚とかお母さんのベッドとかね。あとグランドピアノと庭もそのまま行くつもり。」
「ピアノおいて?続けて欲しいな…。」
「あれはお母さんのだからね。
 僕のは持って行くよ。向こうでレッスンとかは決めてないけど…。」
「ニノの歌声、もう一度聞きたかったな。」
「そうね。」
「お母さんの為に歌ったから…今はまだ……。
 あ、でも『歌』はとても好きになったから…また、いつかきいてもらえると思う。」
「そうだな、こっちに家もあるんだし。時々は帰ってくるんだろ?」
「うん。家もだけど、お祖母様のこともあるし、お墓参りとかさ…。」
「そうね。」
「ニノ、大学は?」
「え、ふたりはもう決めてるの?」
「オレは夢は大きく『T大』で!」
「私はざっくりと『医学部』かな。」
「へぇ、そうなんだ。
 僕は…まだ決めてないんだ。」
「そうか…。
 まぁでも、ニノの成績ならどこでも好きなとこ行けるって。レベルの高い悩みだね。
 じゃあ、明日、卒業式で!」
「「また明日!」」


A駅で鈴木くんが降りた。


「でも…何でもできるって、選ぶのたいへんそうね。文系か理系かも決めにくいし。」
「そういう訳じゃないけど…。」
「将来の夢みたいなのは?」
「本当にわからないんだ。
 お母さんの夢も…聞けなかったし…。
 お祖母様も知らないって…。」



お母さんの夢?お祖母様?
不安に揺れる飴色の瞳…。

二宮くん、もしかして貴方はまだ…。








何とか年内に過去編を終わらせようと思ってます。
『秘密』と『GUTS!』あと数話デス。
本編に戻れなくなりそう…。