2016.1.25 Mon.


«鈴木»



高等部模試で今日も部活は無し、なんだか今月はまともに練習出来る日が少ない。
先週は中学校の統一入試、試験と発表があって係の生徒以外は家庭学習、登校禁止だった。
家庭学習日っていっても毎年ここは4連休になるから、私立中あるあるで家族でスキー旅行、海外旅行など結構楽しんでいるヤツも多い。
高等部になったらそうも行かないだろうけどな。今年、ウチは弟が受験でオレは文字通り家庭学習日だった。

学校が休みの間、ニノの様子が気になって仕方なかった。お祖母様と何かあったのは間違いない。駅前広場をフラフラとヒドい表情で歩いていたし、アレから一度もお祖母様の家に寄らなくなった。あんなに毎日通っていたのに。





先々週、唯一帰りも3人になる木曜日に誘われた。

「鈴木くん、N市中央図書館を利用したことある?」
「S駅の?一度行ったかもな。」
「閲覧室とは別に学習室があるんだ。
 黒木さんに教えてもらって、昨日行ったんだけど、すごく良いところだったから、今日も行こうと思うんだ。」
「え、今日も行くの?」
「うん。早く家に帰ってもなんか落ち着かないし。良かったら一緒に行かないかなって。」
「学習室?そんなのあるんだ。
 行ってみようかな。黒木さんは?」
「あ、木曜はピアノなの。
 図書館の近くなんだけどね。」
「オレも今日は英会話だけど、レッスンまで時間はあるから見に行くよ。」


3人で図書館へ行った。黒木さんはすぐに帰り、オレは英会話までの間、学習室へ行った。
確かに勉強するには良い環境だけど、ニノが通うほどとは思えない。

「ここも良いけど、家の方が良くない?」
「そだね。ま、気分転換というか…。
 学校から真っ直ぐ家に帰るのが落ち着かないんだよね。」
「そっか。病院も毎日行ってたもんな。
 最近、お祖母様は?もう大丈夫なの?」
「なんかさ…。寂しいだろうと思って通っていたんだけど…。ボクはお母さんの身代わりでさ…。」
「は?身代わり?」
「すごく良くして下さるし、楽しそうでね。
 お母さん、いなくなって沈んでらしたから、ちょっとでも元気になってくれるならって思ってた。」
「そんなの、おかしいだろ?」
「うん、始業式の日に制服で行ったらさ…。
 なんか混乱させたみたいで…。」

あの日か…。

「でも亡くなってから、2学期は大丈夫だったのに?」
「火葬場で倒れて、寝込んでて、社葬では頑張ってくれたんだけどね。しばらくは寝たり起きたりでね。冬休みからは元気になってさ。」
「そうか、ニノ、私服だと…。」
「お母さんソックリ…でしょ?
 フフッ、女の子みたいだしね。」
「なんか解る気がするけど…大丈夫?」
「ボクも体調崩してさ、『過労』だって。
 なんか笑っちゃうでしょ?」
「マジで?」
「それでお父さんが本家に行くなって。」
「そりゃそうだな。ちょっと距離をおいた方が良さそうだね。時間も…。」









初めてお見舞いに行った時のことを思い出す。
帰りの車で聞いたお祖母様の話。
黒木さんとふたり、憤りを感じた。

お母さんが亡くなったのは気の毒だけど、看病からは解放されるから少しは良かったと思ったのに。

なんてことだ。

彼の寄り道は、ただの気分転換じゃない。
次々降りかかる試練からの逃避だ。
彼自身を守るための現実逃避なら喜んでつきあう。

黒木さんも同じ考えみたいで、部活のない日は一緒に図書館へ行くようになった。ピアノも塾も時間ギリギリまでつきあった。
野球部は月水金、コーラス部は火金、金曜以外は交代でなんとかなってる。

今日は休館日、黒木さん、月曜はいつもどうしているんだろう?学校の図書室にでも誘ってみるか?


できることは何でもやるよ。





── ニノを独りにしないために。