2016.2.29 Mon.





明日から期末テスト、中学生最後のテストだ。
お祖母様の家に寄らなくなって、部活も今さら、結局、図書館に毎日寄って勉強していた。
学習室は思いのほか心地良く、勉強が捗った。教えてくれた黒木さんに感謝だ。




「和也、ちょっといいか?」
「はい、何です?」

ノックしてお父さんが部屋に入ってきた。
珍しく何か話があるみたい。

「ウチの会社が神戸を拠点に発展したのは知ってるよね?」
「お祖父様のお祖父様がイギリスとの貿易業から始めたって聞いています。」
「最初は『オリエンタル商会』として小さな船会社だった。戦後『オリエンタル貿易』となり今では総合商社『オリエンタルコーポレーション』として全国に支社や関連会社がある。
 去年、お義父さんが亡くなって本社機能を関東に移すことになった。私も向こうに常駐しようと思うんだ。お母さんの病院のこととか…もうこちらにこだわる必要もなくなったし。」
「え?それって…僕もってこと?」
「私が転勤したらここでひとりって訳にはいかない。普通なら本家にお願いするところだが、お義母さんとは距離をおいた方が良いだろ?」
「いえ、もうお祖母様は大丈夫、僕を認めてくださったし。ピアノもこのままにしておくって決めたんだよ。」
「とりあえず東京支社長として赴任、グループ全体を統括する。秋には横浜に新たに本社を構える予定、とても出張ではごまかせなくなる。」
「僕はここに残りたい。ピアノもお庭も…。
 学校だってあるのに。」
「中学までR学園、高校からは姉妹校に転校しなさい。住まいもS学院に通える範囲ってことでK県で探しているから。」
「ちょっと待ってよ。
 お母さんの大切な思い出をお父さんとふたりで守ろうと思ってて。
 お祖母様にもそう言って…。」
「とにかく! 春休みに引っ越すつもりで準備しなさい。本家には行かせられないし、ここに一人で残せないから。」
「そんな…。」
「明日にでも姉妹校への転校を申請して。
 そんなに時間はないぞ。」
「…はい、わかりました。」




そんな…。
やっと、お祖母様とも話し合って…。
改めてお父さんと二人で『家族』として生きていこうと決めたのに…。

転勤?引越?転校?…そんなのイヤだ。
お祖母様から離れ、この家からも離れるなんて、お母さんから遠ざかるみたいだ。




ひとりになってもココにいたい。
お母さんもそうして欲しいよね?


たとえボクが独りになっても……。