2016.2.11 Thur.







なんだ、そういうことか…。

小さい頃から幾度となく耳にした話。
お母さんが入院するたび繰り返されて、
今も時々…夢に見る。


「やっぱり出産が無理だったんですね。」
「貴方には止めて欲しかった。」
一日でも長く生きてくれれば…。
「これからも守っていきますから…。」
「貴方に二人も背負わせてごめんなさい。
 もしもの時は…私が和也を…。」
「いえ、私がそのまま…お願いします。」

ねぇ、何の話をしているの?
ボクは一緒にいられないの?
お母さん…死ぬの?



目覚めるといつも泣いていた。
何度も見ている、悲しい夢。



なにもかもがストンと腑に落ちた。
いや、とうの昔に判っていた…。

なんだろう?この感じ…。
ずっとみていた下絵に綺麗に色がついたみたいに、すべてがクリアになった。

お祖母様たちは苦悶の表情で目を伏せている。
僕は…さほど驚かない自分に驚いていた。
むしろホッとしたかもしれない。


「叔父様が僕の…そうだったんだ…。」
「和也様…。」
「ショックかもしれないけど本当なの。」
「大丈夫、不思議と驚いてないんです。」
「ピアノを戻してくれるのなら、アナタもウチに来てちょうだい。」
「奥さま、それは…。」




お母さんは逝ってしまった。
本当のお父さん……叔父様なんて顔も知らない。
だいたい『本当の』ってなに?
血のつながり?夫婦だって元々は赤の他人、
『家族』の定義って何なんだ?



「ごめんなさい、お祖母様。
 僕は家に…ピアノも…ココに残ります!
 お母さんが大切にしていたこの家は
 お父さんとふたりで守ります。」
「和也…。」


僕にとって家族はお父さんだけなんだ。


「あの…僕…聞かなかったことにします。
 お父さん、何も言わないのは…たぶん…
 このままで良いと思っているんでしょ?」
「それは…。」
「ヒロコさん、せっかくお話してくださったのにごめんなさい。でも、僕に話したこと、お父さんには秘密にしておいて下さい。」
「坊ちゃん…。」
「今まで通り、何も変わらずに…。」


僕なんかには想像つかないほどの深い愛情でお母さんを守って、僕のことまで育ててくれて、これ以上お父さんに余計な心配をかけたくない。
僕にできるのは今まで通りに接することくらいしかないんだ。




このままもっと、同じ想いで…。