2016.2.11 Thur.







このグランドピアノを弾くのもこれが最後かもしれない。

なんだか胸が苦しくなったけど、
心を込めて弾き、お母さんを想って唄った。

お祖母様とヒロコさんが泣いていた。

「本当に、充さんにそっくり。
 やっぱり…血は争えないわね…。」
「…奥さま…。」


あの日のお母さんも充さんにそっくりだと泣いていた。後になってお祖母様に聞いた、恋に落ちたふたりの話…。



お母さんが亡くなった日。
最後に唄ってあげる時、どうか叔父様に声が似てますようにと願った。
お母さんは聞きながら幸せそうに眠った。
…そのまま帰らぬ人となったけど、
涙を流しながらも微笑んでいてくれた。

これで良かったんだと思えた。





でも、血は争えないって…。
お父さんの弟にそんなに似てるんだろうか?
おそるおそる口を開く。

「そんなに叔父様に似ていますか?」
「それはもう…。」
「お父さん、全然音楽はやらないし…。
 僕が似ていてよかった。
 お母さん、喜んでくれたし…。」
「翠はね、充さんの音楽の才能に惹かれてたのよ。特に声楽の才能に惚れ込んでいた。」
「声楽で留学するほどですもんね。」


「充さんの才能を伸ばすためなら…と留学に反対しなかった。自分は病弱だし誠治さんと婚約していたし…。諦めるつもりだったのよ。」
「ふたりの気持ちにお父さんは気づいて、すぐ婚約を解消しようとしたんじゃ…。」
「だけど充さんがパリで亡くなった。
 今も原因はわからない。ただ翠にとっては何であれ充さんを失った事実が衝撃で…。」
「倒れたんですよね?」
「そうよ。その時に妊娠していたことが判って急いで籍を入れたのよ。」


え……。

お祖母様、今…なんて……。