2016.1.8 Fri.





思い出をたどっているとばかり思っていた。
そうすることで少しずつ立ち直っているように思えた。

でも…違ってた。

さっきのお祖母様は……
まるで知らない人を見るような眼だった
お母さんの死を無かったことにしてたんだ。



「これアナタの好物のロールキャベツよ。
 誠治さんとふたりで食べてね。」
「たまにはふたりで食事に来なさい。」
「3人でお墓参りに行きましょうか。」



そっか、翠の好物のロールキャベツを
誠治さんと翠とふたりで食べて…
夫婦ふたりで食事に来なさい…
3人でお祖父様のお墓参りに…。
── そういうことか。─


ハハッ なんだか…笑える。

お祖母様のアタマの中では、お母さんは出産なんてしてなくて、ふたりは仲良く暮らしてるんだね。

カワイイ娘は結婚して幸せに暮らしてるはずなのに、そっくりな僕が学生服なんか着てたら混乱して当然だ。



やれやれ、驚かしてしまったなぁ。
ごめんなさい、お祖母様。
これからは私服にするね。

もう解った。大丈夫。
お祖母様が悲しみ沈む位なら、僕がいなかったことにしたほうがずっと良い。
そうだよね、お母さん。







電車で帰ろうとA駅に向かった。
駅前広場で鈴木くんとすれ違う。

「ニノ!どうしたんだ?」
「あ、今帰りなの?
 別にどうもしないよ。」
「だって…その顔…。
 いや、大丈夫ならいいんだ。」
「うん、大丈夫だよ。」
「気をつけて、また来週!」

手を振って風のように去ってしまった。
その顔って、どんな顔してるんだ?


駅のトイレで鏡を見た。

なんでだろう。
ひどい顔の僕を鏡の中に見つけた。
泣いてた訳じゃないのに。
バシャバシャと思い切り洗った。
鈴木くんに感謝だな。



鏡の自分に笑いかけてみる。
これで良し。

明日からはもっと上手に笑ってみせる。