«黒木»
2週間前──。
「今日は本当に楽しかった。
ぜひまたいらしてね。」
その日の夜に二宮くんのお母さんが亡くなった。信じられなかった。でも昨日、社葬─告別式─があって本当だと認めざるを得なかった。
二宮くん、大丈夫かな?
昨日の社葬、終始落ち着いてた。
穏やかな表情で参列者に丁寧な挨拶を返してた。こんな時まで“PerfectFairy”じゃなくていいのに…。
いつから学校に来るつもりだろうか?
この2週間、一度も学校に来ていない。
まさか、もう来ないってことはないよね?
「あの子はね、自分の為に何かしたことがないんですよ。全て母親の為に生きているの。」
「あの子は誰にも甘えたことがないんですよ。
…私にも父親にも、誰にも。」
「すべてを母親の為に、笑顔の為に暮らしているの。お母さんの夢を叶えるんだって。」
中2の春、お祖母様がおっしゃってた。
二宮くんの秘密を知って、鈴木くんとも話し合って、できるだけのことはやってきたつもりだけど…。所詮サポートはサポートにすぎない。
今まで生きてきた目的、自分の存在意義を見失ったんじゃないの?
一番大切なものを失ってしまった彼はどうやって立ち上がるんだろう。
やはり一度訪ねた方が良い?
鈴木くんと…小池先生にも相談してみよう。
いけない、電車の時間ギリギリかも…。
ホームに駆け上がった。
…え?……う…そ……
いつもの場所に、二宮くんが立っていた。
静かな横顔に見とれる。
~♪~♪~
到着の案内メロディーに顔を上げた。
私に気づいて、優等生スマイルになる。
「おはよう。」
「お、おはようございます。」
「昨日はわざわざありがとう。」
「いえ、そんな。あの…この度は…」
「お茶会も来てくれてありがとう。
おかげで穏やかな顔で逝きました。」
電車に乗り込む。
こんな時、何を話せばいいの?
口を開くと涙がこぼれそうで何も言えない。
2分後、A駅から鈴木くんが乗ってきた。
「おはよう、ニノ今日から?」
「おはよう。長い間ごめんね。
文化祭、どうなってる?」
「ん、大体先は見えたよ。後は……」
鈴木くん、凄い。まるで今まで通り。
私、何やってんだろう。こんなギクシャクした態度、二宮くんに気を遣わせてしまうだけだ。
鈴木くんが正解、何事もなかったようにフラットに接すべきだ。
それが二宮くんの日常を守ることになる。
でも…本当に?
二宮くん、平気なはずないよね?
ちゃんと泣けた?
誰にも甘えたことがないって…。
私じゃダメ?
ううん、私達じゃなくてもいい。
心を解放できたの?
また、新たな秘密を抱えるつもり?
“Perfect Fairy”なんて…
──やめてしまえばいいのに…。