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玄関ホールで松本くんとすれ違う。

「和也の衣装、可愛すぎだぞ。」
「次はもっと地味にします。」
「次?もう出さないよ。」
「じゃあまた、失礼します。」



玄関前の車に近寄る。
ドアを開けようと運転席から辻が降り、手ぶらの私を怪訝な顔で見る。
とりあえず後部座席に乗り込み、和也のお父さんに話をもちかける。

「お待たせしました。
 あの、突然で申し訳ないんですが…。
 今日は和也くん、私の家に泊まりに来て貰っても良いですか?」
「大野さんのお宅に?」
「はい。ウチは祖父も父も音楽家で…。」
「そうでしたね。」
「私は母の影響で美術の道を選んでしまって、祖父も父も内心がっかりしてるんです。」
「そうですか。」
「ちょっとした罪ほろぼしというか、孫が仲良くしてる和也くんのピアノや歌を聴いたら喜んでくれると思うんです。」
「そうですか?」
「今日は和也くんも疲れているみたいなんで、ゆっくり食事でもして、明日ちょっとその才能を披露して貰えたらと思うんです。」
「そうですか…。和也は…その…。」
「お父さんの許可があれば来てくれると言っています。」
「そうですか…。」
「ダメですか?」
「いや、和也もその方が…。
 では、お言葉に甘えます。
 ご家族にもよろしくお伝え下さい。」

車から降りようとするのを押しとどめ、辻に送るように言った。問い詰めるような辻の視線は無視する。

じわりと浮かぶ罪悪感を隠し、会釈して見送った。
寂しそうに片手を挙げて帰って行く。
お父さんのどこかホッとした表情に
なんだか救われたような気がした。



さぁ、一緒に帰ろう。
─── 和、心を開いて ───