2013.12.31



«s»



大御所が卒業宣言した紅白歌合戦は白組の勝利に終わり、蛍の光を聞きながら靴を履く。
玄関ドアを後ろ手に閉め、門をくぐると通りの向こうから足音が聞こえて来た。

「翔チャン、お待たせ~」

雅紀が迎えに来た。毎年、近所の神社に初詣に行く。


「いろんな事があったけど、今年ももう終わりだね。」
「そうだな、ホントいろいろあったな。」
「バスケ部はレギュラー定着できたし、成績も何とか2ケタキープできた。翔チャンのおかげだね。」
「ホント雅紀のバスケは凄いよな。
 オレも何とかベンチ入りはできたよ。」
「翔チャンは成績もずっとトップグループなのにサッカーも準レギュラーなんて、凄すぎだよ。」
「たぶん、次の中等部キャプテンもやることになる。」
「さすがだね。僕もサブキャップだよ。」
「何でサブ? 実力は№1だろ?」
「それは…。多分成績の…。」


一番話したいのはこんなことじゃない。
思い切って、切り出す。

「終業式…な、大野さんに千葉の連絡先教えたって話したろ?」
「うん、ありがとう。」
「ありがとう?いや、オレ教えて良かったのか、ずっと気になってて。渡したい物があるっていうから教えたけど結局どうなったのか心配でさ。」
「うん、良かったんだと思うよ。
 ユウから手紙が来た。大野さんから連絡あったって。」
「え?それで?」
「ユウはすっかり諦めがついたんだって。
 迷路から抜け出したみたい。
 で、外国に行っちゃった。」
「えっ?なんで?」
「お父さんの仕事じゃないかな。当分日本に帰ってこないって。」


神社の石段を登る。
境内に入ったところで、そこに居た大学生のグループがカウントダウンをはじめた。


「もう、2度と会えないかも知れない。
 それでもユウはずっと僕のふたごの片割れなんだ。」
「2度と会えない?連絡先は?」
「ただ、外国としか…。家族揃って行くみたい。」
「ほんとにいなくなったのか…。」
「ユウは全て断ち切ったんだと思う。凄いことだと思うよ。逃げたんじゃない…たぶん、新しいなにかを探しにいったと思うよ。」
「そっか、前向きになったんだな。」
「うん、僕にはわかる。色々あったけど、ユウは先へ進んだんだ。」


寂しさを瞳に残しながら、それでも真っ直ぐに言い切った。
雅紀の本当の強さをみた気がした。

頼りないと思っていたのにいつの間にかおいていかれたような気がした。
オレも強くなろう。



未来は何が起こるかわからない。
これからもオレたちは出逢いと別れを繰り返し、喜びや悲しみを味わい、ときに失い傷つくことだろう。

それでも、前を向くしかない。
自分で掴みとるために。



年が明ける。











出逢いと別れ ~とまどいながら~ (過去編)

 ─ 終了 ─


暗いお話、長々お付き合いいただき、ありがとうございました。
Lotusで少しでもハッピーな未来を見つけていきたいです。