2013.11


«c»







休学しますと連絡した次の日、櫻井くんが来てくれた。
すべてを話した。僕の歪んだ心、真っ直ぐ見つめ返してくれた。第3者なのに背負わせてしまったけど、彼ならきっと大丈夫だ。マーのことも守ってくれるに違いない。

 

僕は少し軽くなった。
櫻井くんに話せたこともあるけど、何と言っても休学を決め、学院に行かなくてよくなったことが、予想以上に気を楽にしてくれた。ずる休みしている後ろめたさが無くなったからかな?


とにかくこれで大好きなマーを妬んだり羨んだりしなくて済むんだ。

先月の秋季大会は大活躍だったよね。
元々僕がやりたいって誘ったバスケットボール、マーが代わりに活躍してくれて本当に嬉しい。
大野さんの描いたマー…。
『空』ってタイトルがしっくりくる。
どこまでも羽ばたいて欲しい。

もう君は僕の憧れになった。




不意に空を見たくなり久しぶりにカーテンを開けた。眩しくてクラクラする。
道路の向かい側にマーがいた。
こちらを見上げ、驚いた顔をしている。
僕に気づいて…太陽みたいに笑った。

携帯が鳴る。

「もしもし、ユウ?」
「…うん、マー?」
「元気?」
「うん、元気だよ。」
「そっかぁ、なら良かった。
 休学したって聞いて…つい来ちゃった。
 ごめんね?顔見られて嬉しいよ。」
「黙っててごめん。マーに会いたくて会えなかった。逃げ出しちゃった。」
「僕こそごめん。いつも呼び鈴が押せなくて、逃げちゃってた。情けないよね。」
「来てくれてたんだね。ありがとう。
 マーは優しいから…甘えてるよね。
 ごめんなさい。」
「もう、戻れないの?」
「うん…ごめん。マー…ごめん。
 マーが…大好きだよ。」
「もう謝らないで…無理しなくていいよ。
 僕もユウが大好きだよ。」


もう一度、外を見た。
マーが涙を流しながら笑っていた。
僕も精一杯の笑顔で手を振った。




マーに出逢えて良かった。
もうこれでいい。
S学院に思い残すことはない。





地元の中学校には行きたくないからって
休学にした。でももう2度とS学院に行くつもりはない。だったら未練がましく籍だけおくのはどうだろうか。

根気よく待ってくれている両親に素直な気持ちを話した。すると、なぜかホッとしたように頰を緩めて僕を見てくれた。







お父さんの海外赴任が決まった。
せっかく入ったS学院に通わせたくて単身赴任するつもりでいたらしい。

S学院…。
全国各地に姉妹校がある名門私立。
近隣では制服を着てるだけで注目される。
僕は地元中学に行きたくなくて受験した。
もう未練はない。

月末。僕は学院をやめた。