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「木曜から眠っていたらしいよ。」
「驚かないで。月曜日なんだ。
 ゆっくり思い出そう。」



え…。そんなに…。
ここは…病院だけど…どこなんだろう。
智がナースコールのボタンを押し、側にいるよと言うように、私を見つめたまま隅のイスに座った。

優しそうな先生がいらして、テキパキ診察して下さる。IDは“Dr.AIBA”って?
その間も智から目が離せない。

しばらくして、慌てた様子でお父さんがやってきた。

「和也、大丈夫なのか?」
「お父さん、心配かけてごめんなさい。」
「いや、いいんだ。あのこちらは?」

「初めまして。S学院3年の大野智です。
 入院されたことを知らず御見舞いが遅くなってしまいました。」
「御見舞いありがとうございます。
 ずっと目が覚めないかと心配でしたが、
 お蔭様で明日退院することになりました。」
「もっと早く伺えたらよかったのですが、入院を知ったのが今日のお昼だったもので…。目覚めて良かったです。」

お昼に知ってすぐに来てくれたの?
え?そういえば 学校は?大丈夫なの?

「私は留学で留年していまして、単位はほとんど揃っています。今日は早退して参りました。」
「わざわざありがとうございます。
 大野さんが来てくれて、目を覚ましたのかもしれません。
 和也、本当に良かった。」

「入院して迷惑かけるなんて…。
 お仕事、大丈夫?」
「もちろん。出張を一日早く切り上げて帰ってきたら倒れましたって。櫻井くんが説明してくれてね。驚いたぞ。松本くんと相葉くんがこちらに運んでくれたんだよ。
 ちょうど週末で、仕事は問題ないよ。」

「明日、自分で帰れるからお父さん会社に行ってね。支払いだけは今日済ませて下さい。」
「いや、午前中なら大丈夫だから…。」

お父さん…午前中なら抜けられそうって、火曜は大事な役員会なのに…。きっとまたドタキャンされるだろうし、退院してもどうせ家で独りだ。



「あの…明日の退院、よろしければ私が迎えに来ましょうか。元々明日は学校行かない日なので。」
「そんな訳には……。」
「…智が来てくれるのなら、嬉しい。」
「和也?そんな甘えて…本当に大丈夫?」

結局、智が来てくれることになった。
お父さんには、迷惑かけずに済みそうでホッとする。

よくよく考えれば、智と話すのはまだ3回目なのに、こんなに甘えて良いものかと思ったが、不思議と遠慮はなかった。

「明日、必ず来るから…。」

もう一度手を握り、智が帰った。


「和也が他人に甘えるところ、初めてみたよ。」

とまどいながら、それでもどこか嬉しそうに、お父さんが呟いた。