«m»









病室のベッドに横たわるニノ…。
また、見惚れてしまう。

「ニノ…。起きてくれよ…。」

倒れていくニノの哀しそうな顔が忘れられない。胸が痛む。
空いている方の手をとる。



……あさん、……いで……。

美しい顔が苦しそうに少し歪んだ。

「ねぇ…ニノ…。起きて…。」


手を握る。ほんの少し力を入れる。
僅かに握り返された気がした。
顔を見る。また静かに眠っている。

ほんとにキレイな横顔だな。
鼻筋、アゴのライン、白い頰…。じっと見つめてしまう。
陰を落とす睫毛が微かに震え、目尻から一筋の涙がこぼれ落ちた。

「ニノ…。」

病室のドアが静かに開いて、
櫻井先輩がニノのお父さんと入ってきた。
手は握ったまま立ち上がる。

「ありがとう。休日まで来てくれて。」
「ちょうどエレベーターから降りてこられたんだ。」
「こんにちは、あの…。涙が…。」
「え?」

二人が覗き込む。
目尻からこめかみに涙の跡が光る。
サイドテーブルからティッシュをとり、差し出したが受け取ってもらえなかった。
お父さんが立ち尽くす。

「和也、どうして…。」

黙ってティッシュで涙をぬぐう。

「ずっとあのままで、呼びかけても起きないらしい。
 涙、急に?」
「うなされてるようなので手を握って、呼びかけて、でも目覚めなくて…。
 すぐ落ち着いたと思ったら、涙がこぼれて。」







目覚めるまで退院させられないと言われたらしい。櫻井先輩とふたり、黙って歩いた。駅についてしまう。どうしていいかわからない。

「松本、時間あるか?」
「はい、大丈夫です。」
「夕方、雅紀と会うんだけどその前にちょっと付き合ってくれるか?」


駅ビルにあるWi-Fiフリーのカフェに入った。