「セルフコーチング」という言葉を聞いても、あまりピンとこない人は多いと思います。

それも当然で、そもそも「コーチング」という言葉自体が、日常生活の中でそこまで身近なものではないからです。

なんとなく聞いたことはある。
 

ビジネス系の言葉っぽい。
自己啓発の一種のようにも見える。
誰かが相談に乗ってくれることのようにも思える。

 

けれど、実際には何をするものなのか、どういう考え方なのか、そこまではよくわからない。
そういう人のほうが、むしろ普通だと思います。

 

そこでまずは、「コーチングとは何か」というところから、できるだけ平易に整理してみます。

コーチングというのは、簡単に言えば、
相手に答えを教えることではなく、問いを通して相手の中にあるものを引き出していく関わり方です。

 

たとえば、誰かが悩んでいるとき、普通はつい「こうしたほうがいいよ」と助言したくなります。
あるいは、「それならこう考えればいい」と正解らしきものを渡したくなります。

もちろん、それが役に立つ場面もあります。
 

知識や経験が必要な場面では、アドバイスはとても重要です。

ただ、人の悩みや迷いというのは、いつも知識不足だけで起きているわけではありません。

 

本当は自分の中に答えの種があるのに、
気持ちが絡まって見えなくなっていたり、
思い込みが強くなっていたり、
焦りや不安で整理できなくなっていたりすることがあります。

 

そういうときに必要なのは、
外から答えを与えられることではなく、
自分の中にあるものを、自分で見つけ直していくことです。

コーチングは、そのための手助けをするものです。

 

 

つまりコーチングとは、
「この答えが正しいですよ」と教える作業ではなく、
「あなたは今、何を感じていて、何を望んでいて、何に引っかかっているのか」を一緒に見ていく作業です。

ここが、コーチングのかなり大事なところです。

 

コーチングは、説教ではありません。

診断でもありません。

上から何かを与えるものでもありません。

 

むしろ、相手の中にあるものを、相手自身が言葉にできるようにすること。
そのために問いを置き、整理を助け、見えにくくなっているものを少しずつ見えるようにしていくこと。

そう考えると、コーチングというものの輪郭が少し見えてきます。

 

では、なぜ人はそれを必要とするのでしょうか。

それは、人が自分のことを案外よくわかっていないからです。

自分のことは自分が一番わかっている、という言い方がありますが、実際にはその逆のこともよくあります。

 

自分の感情の理由がよくわからない。
なぜこんなに疲れているのかわからない。
何が嫌なのか、何を望んでいるのか、うまく言葉にならない。
やりたいことがあるはずなのに、なぜか動けない。

 

こういうことは珍しくありません。

 

人は、自分の内側で起きていることを、常にきれいに理解できているわけではないのです。

だからこそ、問いが必要になります。

「今、何が起きているんだろう」
「本当は何が嫌なんだろう」
「自分は何を恐れているんだろう」
「本当はどうしたいんだろう」

こうした問いによって、自分の中で曖昧だったものが、少しずつ輪郭を持ち始めます。

 

そして、ここからが今回の本題です。

本来のコーチングは、コーチという相手がいて、その相手との対話の中で進んでいくものです。
けれど、その構造を自分ひとりの中で行うこともできます。

それが、セルフコーチングです。

 

 

セルフコーチングとは、
自分で自分に問いを投げかけ、自分の中で起きていることを整理し、気づき、次の行動につなげていく作業です。

ただし、ここで誤解しやすい点があります。

セルフコーチングというと、
「自分を励ますこと」
「前向きな言葉をかけること」
「自分を奮い立たせること」
のように思われることがあります。

けれど、本質はそこではありません。

セルフコーチングの中心にあるのは、
自分の内側を観察することです。

 

もっと言えば、
自分の内側で起きていることを感じながら、同時にそれを少し離れたところから見ることです。

ここが、少し不思議だけれど、とても大事な感覚です。

私たちは普段、自分の感情や思考の中にそのまま入っています。

 

イライラしているときは、イライラそのものになっている。
不安なときは、不安の渦の中にいる。
焦っているときは、その焦りに押されるままになっている。

その状態では、自分をうまく扱うことが難しくなります。

 

なぜなら、感じているものと、それを見ている視点が、ほとんど一体化してしまっているからです。

 

セルフコーチングでは、そこにほんの少しだけ距離を作ります。

たとえば、

「自分は不安だ」
ではなく、
「不安という感情が出ているな」と見る。

「やる気がない」
ではなく、
「やる気が出ない状態になっているな」と捉える。

この違いは、一見するととても小さなものに見えます。
 

けれど、実際にはかなり大きな違いです。

前者は、その感情と完全に一体化しています。
後者は、その感情を感じながらも、同時に観察しています。

つまり、セルフコーチングとは、
自分の中に入り込んでいくことであると同時に、
その情景を他者のように少し離れて見つめることでもあるのです。

 

言い換えるなら、

自分の内面を掘り下げながら、
その様子を外から観察する。

この二つを同時に行う作業だと言えます。

 

ここで重要なのは、「感情を消すこと」ではありません。
「冷たく分析すること」でもありません。
感じてはいけないわけでも、感情から距離を置きすぎるわけでもありません。

むしろ逆で、ちゃんと感じることが大切です。
 

ただし、その感じているものに完全に飲み込まれないように、少しだけ観る目を持つ。

そのバランスが、セルフコーチングの核心です。

 

たとえば、仕事が進まないとき、多くの人はこうなります。

「やる気が出ない」
「自分はダメだ」
「また何もできなかった」

ここで終わると、感情と自己評価がそのままくっついて、どんどん苦しくなります。

 

けれどセルフコーチングでは、少しだけ見方を変えます。

「やる気が出ない状態なんだな」
「何に引っかかっているんだろう」
「面倒なのか、怖いのか、疲れているのか」
「本当は何を避けたいんだろう」

こうして問いを置いていくと、ただのモヤモヤだったものに、少しずつ形が出てきます。

 

面倒なのではなく、失敗が怖かったのかもしれない。
やる気がないのではなく、単純に疲れていたのかもしれない。
怠けているのではなく、やることが大きすぎて固まっていただけかもしれない。

こうしたことが見えてくると、初めて自分を適切に扱えるようになります。

 

ここでようやく、行動の話ができます。

セルフコーチングは、ただ自分の心を眺めるだけの作業ではありません。
内面を見つめたうえで、現実の行動を選び直すためのものでもあります。

 

つまり流れとしては、

今の自分の状態に気づく。
その状態を観察する。
何が起きているかを少し掘る。
そのうえで、今できる一歩を決める。

この順番になります。

 

とてもシンプルに言えば、

気づく → 観る → 問う → 動く

です。

そして、最初の入り口としては、もっと簡単でも大丈夫です。

たとえば次の三つだけでも、十分にセルフコーチングになります。

 

まず、自分の状態に名前をつける。

「焦っているな」
「重たいな」
「少し不安だな」

次に、ひとつだけ問いを置く。

「何に反応しているんだろう」
「本当は何が嫌なんだろう」

最後に、すぐに正解を出そうとせず、そのまま少し眺めてみる。

 

これだけでも、感情に巻き込まれた状態から、かなり抜けやすくなります。

大切なのは、立派にやろうとしないことです。
深く分析しすぎなくてもいい。
正しい答えを出さなくてもいい。

ほんの少しだけ、自分の中で起きていることに名前をつけ、問いを置き、眺める。
 

それだけで、自分との関わり方は変わってきます。

 

セルフコーチングとは、
自分を無理に変える技術ではありません。

自分の中にあるものを、丁寧に見えるようにする技術です。

そしてその結果として、
感情に飲み込まれにくくなり、
無駄に自分を責めにくくなり、
次にどう動けばいいかを選びやすくなります。

 

言ってしまえばセルフコーチングは、
自分の中にもうひとつの静かな視点を育てることなのかもしれません。

感じている自分がいる。
迷っている自分がいる。
揺れている自分がいる。

その一方で、それを見ている自分もいる。

 

その「見ている自分」が育ってくると、人は少しずつ、自分の人生を自分で扱いやすくなっていきます。

 

セルフコーチングとは何か。

それを一言でまとめるなら、

自分の内側に入りながら、同時にそれを一歩引いて観ること。
そして、そこから自分の次の一歩を選び直していくこと。

そう言えると思います。