レジュエ・センシス・ストーリア 第2部 四竜伝説編1 異世界の侵略者 

序章


「はい。5分前」

教卓の上に乗せた腕時計の針を見て、このクラスの担任で試験官でもある村田良広(むらたよしひろ)が言った。
その声でハッとして、川野睛(かわのひとみ)は外から答案用紙に目を移す。
ざっと見直ししてから、今度は教室の中を見る。
見える範囲だけでも九割の生徒が机に突っ伏して、軽い眠りを貪っている。
中学三年生の四月。
今日は二度目の金曜日で、学力テストの最終日でもある。

(いかん。いかん)

そっと溜め息を吐いて睛は心の中で舌を出す。
ボーっと外を見ているうちについつい変わったものまで見つけてしまった。
……そんな気がする……
外は生憎の曇り空で、どんよりとしている為、尚更黒い穴の様のものに見えてしまった。

(でも、あんな所に穴なんか無い筈だから、何かの影だよね……きっと……)

朝礼台の真下。運動場の土の上にあるそれを思い起こして考える。
ほぼ同時にチャイムが鳴り、やめの号令の後、最後尾の生徒が答案用紙を回収していく。
終了の挨拶の後、机をすべて後ろに寄せ、清掃の為、三々五々に散って行く。

「睛。テストどうだった?」

出席番号が一つ前で、近所に住んでいるせいもあって親しくなった小田友子(おだともこ)が声を掛けて来た。

「ダメ。ぜーんぜん、分からない」

担当区域に移動しながら睛は答える。
出席番号順ではなく、席順で清掃区域は分けられる為、二人は途中で分かれる事になる。

「友は?って、聞くまでないか。問題用紙の裏に落書きしてたし」
「あ、バレてた?」

睛に言われ、友子は小さく肩を竦める。

「すぐ前でやってりゃ、分かるわよ」

互いに顔を見合わせて、小さく笑う。
また後でと言って別れた。
二人の少し後ろを歩いていた星月由美奈(ほしづきゆみな)は睛の後を追う。
同じ場所の担当なのだ。
廊下の窓から外を見て、不意に歩みを止める。
厚い雲に覆われた空を見て、次に下を見た。
中庭が一望できる場所から花壇を見ると、色取り取りのパンジーが、まるで虹の一部を切り取ったかのように配列されているのが見える。
暫く中庭を見つめ、不意に目を離して歩き出す。
だが、いくらも行かない内に再び立ち止まると空を見上げた。

「何か……」

起こる、かもね。

言葉の後半は由美奈の胸の中で止まった。
丁度担当の場所から睛が箒片手に呼び掛けたからだ。

「何?」

近づいて来た睛は由美奈が見ていたものが気になって問う。
だが外は、今にも雨が降りそうな空と中庭、そしてそこを担当する生徒しか見えない。

「傘、持って来てないから……雨、降ると困るなぁって」

答えになるほどと頷く。

「でも雨が降ったら、うちは部活休みだよ」

睛は言い、うちもと由美奈は同意する。

「多分、ね……さ、行こうか?」

続けて由美奈は促し、二人は揃って清掃区域に向かった。




                                     つづく