障害のある子の親なきあとを考えた時、多くの方が不安に感じるのは「子どものためにいくらお金を残せばいいのか?」ではないでしょうか。

 

 確かに、お金の問題は大切です。

 しかし、そこに比重をおいて対策を行うと、思わぬ問題が起こることがあります。

 

 今回の記事のポイントは、下記の3つです。

 ①お金の問題と子どもの世話をみる人の問題を分けて考える

 ②父親が亡くなった場合と母親が亡くなった場合で、実際いくらのお金が必要となるの

  かをシュミレーションしたうえで、金銭的な対策をとることが必要。

  ③普段からショートステイを利用し、子どもが親と離れて暮らす練習をしておくことは、

  万が一の場合の備えにもなり、子どもの自立にも役立つ。

 

 今回の記事では、親なきあと対策をとる際に注意すべきポイントを解説していきます。

 

 

✔子どもの世話を見ているのは誰か?

 

 親が亡くなった後も、障害のある子が安心して暮らしていけるよう、お金をたくさん残してあげたいと思うのが親心だと思います。

 

 また、障害のある子にきょうだいがいる場合、きょうだいにお金のことで迷惑をかけたくないからお金をできるだけ多く残したいと思う方もいると思います。

 

 しかし、充分なお金があれば親なきあとの不安は解消されるのでしょうか。

 

 確かにお金がある方とない方では、その後の生活に違いが出る場合があるかもしれません。

 しかし、日本には様々な福祉サービスがあり、それらを利用することで、障害のある子の生活を支えていくことは可能です。

 

 では、お金の問題と同等またはそれ以上に考えなければならないことは何でしょうか。

 

 それは、障害のある子の世話をしている方が亡くなることです。

 

 結婚をしている夫婦であれば、多くの家庭で「母親」がメインで子どもの世話をしているのではないでしょうか。

 これは、障害のある子がいるご家庭に限られたことではなく、どの家庭にも共通していることだと思います。

 

 共働きの夫婦でも、母親は産休や育休で、どうしても仕事を離れなければならない期間があります。

 また、育休明けで仕事に復帰した場合でも、子どもが小さい頃は今まで通りに働くことが難しいため、ある程度子どもが大きくなるまでは時短で働く方も多いのではないでしょうか。

 

 そのため、どうしても子どもの出産に影響を受けにくい夫の収入がメインとなり、その夫を支える意味でも、子どもの世話は母親がみるという構図ができます。

 

 私自身も幼い子どもがいますが、子どもの世話は主に私が見ています。

そのため、私が風邪などで体調を崩し、子どもの世話を父親にお願いする時は、子どもにして欲しいことを逐一伝えています。

 

 また、子どもが小さい頃は、子どもにあった病院を探すためにいくつもの病院にかかる方も多いのではないでしょうか。

 かかりつけの病院が休みだったため、仕方なく他の病院に行くこともあります。

 

 母親の中では、「具体的な症状がある場合は〇〇病院」、「総合的に判断してほしい場合は□□病院」などとルールを決めています。

 

 しかし、「病院に連れていくのは自分だから」と、日常的な育児のルールを夫に伝えていない場合、複数の診察券を見た時に、夫は「どこの病院にかかればよいのか」すら分からない状況がうまれます。

 

 このように、子どもの成長などは夫婦間で共有していても、無意識に伝えていない子育てのルールもあるのではないでしょうか。

 

 そのようなご夫婦で、母親が突然亡くなった場合、どのような問題が起きるのかを考えてみることはとても大切です。

 

 

✔父親が亡くなった場合と母親が亡くなった場合の違い

 

 次に、障害のある子の父親が亡くなった場合と、母親が亡くなった場合で、どのような違いが起きるのかを考えてみます。

 

 夫55歳(会社員)、妻46歳(会社員)、子15歳(療育手帳 重度A) 

 持ち家(夫名義の住宅ローンあり)、生命保険金1000万円(受取人妻)

 

◆会社員の夫が亡くなった場合

 夫が厚生年金に加入していた場合、妻は「遺族厚生年金」と「遺族基礎年金」を受け取ることができます。

 子どもには障害があるため、遺族基礎年金は子が20歳になるまで受け取ることができ、遺族厚生年金は妻が亡くなるまで受け取ることができます。

 

 また、妻は遺族基礎年金の支給が停止された時(子どもが20歳に達する時)から、65歳になるまでの間、「中高齢寡婦加算」を受け取ることができます。

 

遺族厚生年金(長期の遺族年金では、死亡した夫の被保険者期間が20年以上の場合(中高齢者の期間短縮の特例などによって20年未満の被保険者期間で老齢厚生年金の受給資格期間を満たした人はその期間))の加算給付の1つです。遺族基礎年金は子どものいない妻には支給されませんし、子がいてもその子が18歳(18歳の誕生日の属する年度末まで)または20歳(1級・2級の障害の子)に達すれば支給されなくなりますが、夫が死亡したときに40歳以上で子のない妻(夫の死亡後40歳に達した当時、子がいた妻も含む)が受ける遺族厚生年金には、40歳から65歳になるまでの間、中高齢の寡婦加算(定額)が加算されます。妻が65歳になると自分の老齢基礎年金が受けられるため、中高齢の寡婦加算はなくなります。

 日本年金機構から引用

 

 また、障害のある子本人は、20歳から「障がい基礎年金」を申請により受け取ることができます。

 

 さらに、住宅ローンの名義が夫の場合、夫が亡くなったら、団体信用生命保険により住宅ローンは無くなります。

 

◆会社員の妻が亡くなった場合

 妻が厚生年金に加入していた場合、夫は「遺族基礎年金」を受け取ることができます。

 

 しかし、「遺族厚生年金」は受給要件があるため、妻が受け取る時のような金額を受け取れるとは限りません。

 また、妻には中高齢寡婦加算という制度がありましたが、夫は受け取ることができません。なぜなら、中高齢寡婦加算は「妻だけ」が加算給付される制度だからです。

 

 さらに、問題となるのが住宅ローンです。住宅ローンが夫名義の場合、妻が亡くなっても住宅ローンは残ったままです。

 

 夫に一定の収入がある場合、妻のように手厚い保障がなくても良いかもしれません。

 しかし、慣れない家事や育児の負担が増えることで、今まで通り働けなくなり収入が減る場合があるかもしれません。

 

 また、万が一に備えて生命保険に加入している場合でも、夫を被保険者(保険の対象者)とする保険に加入しているケースが多いのではないでしょうか。

 そのような場合、妻が亡くなっても夫は死亡保険金を受け取ることができません。

 

 

✔母親が父親より先に亡くなる場合に備えて必要な対策とは?

 

 金銭的な問題にばかり目を向けてしまうと、予想外の形で負担を強いられる場合があるかもしれません。

 お金の問題も非常に重要ですが、実際に子どもの世話を見ている人が亡くなった場合、家族や障害のある子本人に与える精神的な負担も大きと思われるため、生活の基礎が変わってしまう場合も想定して対策を取る必要があります。

 

 では、子どもの世話を見ている母親が父親より先に亡くなった場合に備えて、どのような対策を取るのがよいのでしょうか。

 

 お金の面においては、生命保険の加入を検討している場合、「妻」を被保険者とする(保険の対象者)生命保険の加入を検討することです。

 

 夫婦のうち収入が多い方に生命保険をかけることは一般的だと思います。

 しかし、障害のある子を持つ家庭では、父親より母親に生命保険をかけておいた方がよい場合もあります。

 

 そのため、父親と母親が亡くなった場合では、その後の生活費としていくら必要で、いくら不足するのかを具体的にシュミレーションし、そのうえで父親と母親のどちらが生命保険に加入するかを検討することが大切です。

 

 次に、生活の面においては、親が子どもの世話をすることができなくなる場合に備えて、日頃からショートステイの利用をすることです。

 

 突然親が亡くなり、慣れない環境におかれたら子どもはとても不安に感じるはずです。

 仮に家族から離れる期間が一時的であったとしても、子どもの精神的な負担を軽くするために、日頃から家族と離れて暮らす練習をすることは大切です。

 

 また、子どものかかりつけの病院や、一日の生活スタイルなど、日々の生活で当たり前のことを共有しておくことも非常に大切です。

 

 さらに、通帳の置き場所と暗証番号を夫婦で共有していない方も意外と多いのではないでしょうか

 現代ではネット銀行も増えており、目に見えない資産がある場合もあります。このような情報を正しく共有しておくことは、突然相続が発生した時に手続きをスムーズに行えることにも繋がります。

 

 実際にこのようなケースがありました。

 

 自営業の父親と、専業主婦の母親、重度の障害のある子、健常者のきょうだいがいる家族です。

 障害のある子の世話は、自宅で母親が見ていました。母親を含め家族全員が、障害のある子と離れてくらすことに抵抗があったため、両親が世話をできなくなるまで施設に入所させることは考えていませんでした。

 

 しかし、突然母親が病気で亡くなってしまいました。父親もきょうだいも、生活のために仕事をしなければいけないため、障害のある子の世話を今まで通り自宅で見るという選択肢はありませんでした。

 

 そこで、急いで施設を探しましたが、成人を迎えた障害のある子の入所施設は数が少なく、

 障害のある子にとって環境が良い場所で選ぶのではなく、限られた選択肢の中から決めなければいけませんでした。

 また、両親は将来の施設についての話はしていましたが、施設選びなどの実際のことは母親に任せきりになっていたため、どの施設が良いのかなどの細かい情報は持っていませんでした。

 

 幸いその家族は、頻度は少ないですが、日頃からショートステイを利用していたため、母親の葬儀の間などは、安心して子どもを預けることができました。

 突然母親を亡くし、障害のある子だけでなく、家族全員が憔悴している中で、施設の関係者の方が色々と気を使い、一時的に障害のある子を外出させ、母親と会う時間を作ってくれたりと精神的にも助けられたそうです。

 それでも周りの状況を察してか、障害のある子はいつもとは違っていたそうです。

 

 このように、子どもが慣れているであろう場所や人であっても、いつもと違う状況であれば不安な気持ちになってしまうことは避けられません。

 

 もし、子どもが全く親と離れて暮らした経験がなければ、その不安は計り知れません。

 

 

✔まとめ

 

  今回の記事のポイントは、下記の3つです。

 ①お金の問題と子どもの世話をみる人の問題を分けて考える

 ②父親が亡くなった場合と母親が亡くなった場合で、実際いくらのお金が必要となるの

  かをシュミレーションしたうえで、金銭的な対策をとることが必要。

  ③普段からショートステイを利用し、子どもが親と離れて暮らす練習をしておくことは、

  万が一の場合の備えにもなり、子どもの自立にも役立つ。

 

 

 今回の記事では、親なきあと対策をとる際に注意すべきポイントについて説明しました。

 

 親なきあと対策として、金銭的な対策を考えた場合、どうしても収入の多い父親を基準とした対策になりがちです。

 

 しかし、日常的な家事や育児を行っている母親がいなくなった場合、障害のある子だけでなく、そのご家族の状況も一変してしまいます。

 

 「もし、父親と母親のどちらが先に亡くなった方が困るか」を考え、実際にどのような問題が起きるのかを想像してみることで、取りうる親なきあと対策や、今からしなければいけない行動も変わってくるのではないでしょうか。

 

 

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