私の日課は庭でぴよちゃんのお仏壇にお供えするお花を摘むことです。


義実家は敷地がとても広く、義母が趣味でガーデニングをしているので、ちょっとした庭園のようになっています。
ついこの間までは薔薇がたくさん咲いていて見事でした。
暑くなって薔薇の時期は終わってしまいましたが、今は紫陽花が咲き乱れています。

観光客の方が観光施設と間違って庭に入ってくることもよくあります。
私が住んでいる島はのんびりした観光地なのでそのへんは不法侵入などとは言わずとても寛容です。
義母も写真を撮ってもらえるのが嬉しいようで、知らない人が庭にいても気にせず、「綺麗でしょ〜」なんて話しかけたりお茶を出したりします。

私もそういう和やかな空気が好きなので、死産する前のお休みの日は、義母と一緒に庭いじりをしていました。
お客さんと話すこともよくありました。
今は人と話すのが怖くて引きこもりがちなので、お供え用のお花を摘んだらサッと引っ込んでいます。



でも今日はお花を選ぶのに熱中していて人が近付いてきているのに気づかず、お客さんに話しかけられてしまいました。


そのお客さんは家族連れでした。

若いパパと、若いママと、ベビーカーに乗った赤ちゃん。
赤ちゃんは男の子でした。


ママに「綺麗な紫陽花ですね〜」と話しかけられて、何も答えないわけにはいかず、「ありがとうございます」と答えました。
すごく声が小さかったと思います。
胸がドキドキして声が震えました。

ママは赤ちゃんを覗き込んで「〇〇ちゃん、見てごらん!ほら、紫陽花って言うんだよ」とにこやかに話しかけていました。
パパは紫陽花を背景に2人の写真を撮っていました。
私は家に引っ込もうとしました。

でも、「すみません。シャッターお願いしていいですか?」と言われて、カメラを渡されてしまいました。
断れずに紫陽花をバックにした3人の家族写真を撮りました。

「ハイ、チーズ」と笑顔で言ったつもりです。
でも手がブルブル震えました。
涙が出そうなのを必死でガマンしました。
写真がブレたらやり直しさせられると思って、手に力を込めてシャッターを押しました。

カメラをパパに返す時、ふと見るとママのバッグに「お腹に赤ちゃんがいます」のキーホルダーが…。


もうダメだと思って逃げました。
作業するふりをしてハサミとお花を持ってそそくさとその場を去りました。


ガレージに引っ込んでうずくまって動けなくなってしまいました。
声を出したら聞こえてしまいそうだったから、嗚咽を噛み殺して泣きました。
涙がぼろぼろぼろぼろ流れてなかなか止められませんでした。



なんで私はこんなことになってるの。

あの人たちはたぶん私より若いのに健康でかわいい赤ちゃんがいて2人目も順調に妊娠して家族で楽しそうに旅行してる。

それなのに私はなにしてるんだろう。

流産と死産を繰り返して。
心を病んで引きこもって毎日お仏壇のお世話ばっかりしてる。
お仏壇に向かって話しかけたり絵本を読んだりメモリアルベアーのお洋服を作ったり。
生きてる赤ちゃんにしてあげたかったことをお仏壇やくまのぬいぐるみにしている。

むなしい。
怖い。

怖いです。
私はもう妊娠できないかもしれない。
元気な赤ちゃんを抱けないかもしれない。
不育症かもしれない。

私にとって喉から手が出るほどほしいものをあのパパとママはぜんぶ持ってる。
幸せな光景の写真を撮らされてハイチーズなんて言ってバカみたい。

自分がすごくみじめです。
自分が哀れで仕方ないです。

なんでこんなことになっちゃったんだろう。


今までまじめに生きてきたつもりなんだけどな。



死にたいって思うのは心を病んでるからかですかね。